輸出管理強化の意味

冷静な意見が出始めた韓国

 韓国ではわずかでも日本の肩を持つ発言をすれば「親日派」「土着倭寇(わこう)」と罵倒され、社会的抹殺に近い処遇をされる。そんな中で、日本の戦略物資の輸出管理について冷静な意見を開陳した人物がいる。李春根国際政治アカデミー代表の李春根氏だ。月刊朝鮮9月号の特集「危機の韓日関係」の「国際戦略観点でみた韓日貿易戦争」の記事でだ。

 日本は「安全保障上の懸念」からフッ化水素など3種の先端品目の対韓輸出について、個別に審査することにし、これまで審査が免除されていたいわゆる「ホワイト国」からグループBに“格下げ”した。

 これを韓国は「徴用工」判決に対する「経済報復」と捉え、日本製品不買運動、戦犯企業ステッカー貼り、同製品不使用勧告など、感情的な反発を繰り返し、日本をホワイト国から外して、国際貿易機関(WTO)に提訴。さらに、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄決定と、経済問題を安保問題にまで拡大させた。

 韓国の対日感情が最悪になっている中で、李氏は「マッチは安倍が擦ったが、火を大きくしたのは韓国だ」「日本の規制措置を輸出禁止措置に拡大解釈した」と指摘した。非常に勇気のある発言だ。

 韓国では「蚊の羽音に牛刀を抜く」という表現があるが、まさに今回の韓国の過剰反応がそれで、「今のは蚊だった」と言われ、牛刀を振り上げてばつの悪い思いをしているのがまさに韓国政府である。

 李氏はまた、「韓国側は今回の貿易戦争の“目的”を曖昧にさせてしまった」とし、「韓国政府は国民を興奮させた揚げ句、この戦いで勝つ場合、何が得られるのか、負ける場合、何を失うのかを戦略的に考慮しなかった」と批判した。日本との対決で失うものが多いのは韓国の方だということを韓国政府は国民に伏せているというわけである。

 それに、米国の態度にも注目すべきだと指摘した。「日本だけでなく、米国もやはり日本の戦略物資がもしも韓国を通して、北朝鮮はもちろん中国のような潜在的適性国に流れて行くかもしれないという事実を憂慮していることは明らかだ」と警告する。

 「韓日間貿易問題は米中覇権の脈絡で理解されるが、今、米日が韓国に対し『どちら側に立っているのか』と要求している」という視点が必要だとの指摘だ。

 結局、輸出管理問題は日本に「韓国は安心して輸出できる国」であると証明すれば済む話で、李氏はそれを韓国政府に求めている。このようなまともな意見が保守系雑誌とはいえ、メディアに載るようになったのは、少しは韓国社会に冷静さが戻っていることを示しているのかもしれない。

 編集委員 岩崎 哲