麹町中学・工藤校長の挑戦
《 記 者 の 視 点 》
学ぶ力、生き抜く力を伸ばす改革
今、学校教育の現場で話題になっている教員の働き方改革。東京都内の名門公立学校として知られる千代田区立麹町中学校の校長・工藤勇一氏の教育改革、学校改革、教員の働き方改革に注目が集まっている。公務の合間を見て、全国各地で講演したり、教育関係の新聞・雑誌などからインタビューを受けたり、持論の学校改革について執筆活動をするなど忙しい。
主なポイントは「宿題」「担任制」「中間・期末テスト」を廃止したことだ。一見、無謀なこと、放任主義のように見えるが、その裏には、個々の生徒に対する強烈な責任意識と重大な覚悟がある。
古くから東京の三大名門公立小学校として知られている千代田区立番町小学校から麹町中学校、都立日比谷高校、東京大学へと進学していくのがエリートコースの定番とされてきた。
工藤校長は1960年、山形県生まれ。東京理科大学理学部応用数学科を卒業後、山形県公立中学校の教員、東京都公立中学校の教員、東京都教育委員会で課長など歴任、2014年から麹町中学校校長に就いた。
工藤校長は学校がやるべきことについて「生徒が自ら考え、判断し、決定し、自ら行動できる、つまり自律する力を身に付けさせること」だという。ところが、学校は手取り足取り丁寧に教え、壁にぶつかれば手を差し伸べる。児童・生徒は大人になってからも、何か壁にぶつかると、「先生が悪い」「学校が悪い」「社会が悪い」と人のせいにするようになってしまう。
宿題と定期試験は学力定着の「手段」のはずが、「目的化」され、教師が生徒の成績を付けるためのものになっている。代わりに単元が終わるごとに小テストを行い、合格点に達するまで再チャレンジさせる。放任するのではなく、責任を持って一人ひとりの学力保障を図る。「会議のための会議」を極力減らし、生徒と向き合う時間をつくった。生徒は担任とウマが合わなくても学年の中なら気の合う他の教員と話せるように、固定担任制を廃止。「学年全員体制」を敷いた。各教員の得意分野を広く生かせる。
生徒を機械的に管理する生徒指導・校則の規定にも変化をもたらせている。服装や頭髪の乱れ・変化が出てきたら、まず「なぜそうするのか」、より深く生徒の心を知るキッカケにし、生徒理解を重ね、「指導」に役立てる。また、学校づくりには生徒を主体に据える。運動会や修学旅行などの行事といった「当たり前」のことも生徒主体で見直し、実行させる。親や教師が先回りして事なかれ、危険に遭わないように、と計画を立てるのではなく、失敗しても良い経験として受け止められるように指導している。
教育の本質的な改革はどういうものか。「幾つもの小さな改善を積み重ねることで大きな変化を生む」「学校が変われば、社会は必ず変わる」という工藤校長の言葉は、担任一人でクラスのことを全て負う現行の「学校の体制」を、学校全体で見守っていく「チーム学校」の形に変えていくきっかけになりそうだ。
教育部長 太田 和宏