巨人・中国の金融リスク 不良債権膨張で危機寸前
《 記 者 の 視 点 》
国際通貨基金(IMF)は先月10日、金融安定性報告の中で「金融リスクの脆弱(ぜいじゃく)性が高まっている」とした。新興国からの資金流出や中国の不良債権急増が主因だ。とりわけ懸念されるのが、昨年来の米中貿易戦争などを契機に中国景気が急減速する中、金融機関の不良債権が急増する中国金融危機リスクだ。
そもそも中国経済全体が抱える債務は巨額だ。米ブルームバーグによると2017年時点で、中国全体の負債額は32・5兆元(約536兆円)と国内総生産(GDP)比で256%と急増、10年間で4・4倍に膨れ上がっている。内訳は政府が47・0%、家計が48・4%、企業が160・3%と約6割を企業負債が占める。民間債務残高の対GDP比では、日本のバブル期を上回る水準にまできている。
問題となるのは不良債権だが、中国銀行保険監督管理委員会によると、中国の商業銀行が抱える不良債権は、18年末に2兆元(約33兆円)としている。だが、この数字をそのまま受け取る金融専門家は少ない。何より銀行で販売されながら、バランスシートに反映されない理財商品が存在する。高利回りをうたった資産運用(投資信託)商品である理財商品全てが不良債権になるわけでないものの、高リスク商品を多く抱えているからだ。その理財商品は、18年以降の伸びこそ低下しているものの、それまで前年比4~5割増と急拡大してきた経緯があり、これから中国経済は、シャドーバンキングのつけを払うことになる。
しかし、ここにきても中国政府はインフラ投資を積み増し続けるばかりだ。これでは不良債権の増加を助長するだけとの懸念が、国内からも指摘されるようになってきた。昨年秋も株価急落で、銀行の焦げ付きが急増。金融危機一歩手前だった経緯がある。
こうした中国の台所が火の車であることから、海外資産の売却も大車輪で進めている。安邦生命はニューヨークの老舗ウォルドルフ・アストリア・ホテルやニュージャージー州のトランプタワーなどを売却、海航集団はヒルトンホテルチェーンの株式を売却、万達集団は全米の映画館チェーン売却、ハリウッド映画製作会社買収を断念するなど、かつてのバブル後の日本を彷彿(ほうふつ)させる様相だ。
中国から米国に対して行われた直接投資も、18年は前年比83%減の48億ドル(約5200億円)と急減した。中国による対米投資は、16年には456億ドルを記録していた。
なお、習近平政権の人事が注目された昨年3月の全人代では、習氏の盟友・王岐山氏が国家副主席に選出された。王氏はこれまで副首相や中国人民銀行(中央銀行)副総裁などを歴任し、経済・金融に明るい。独自の米人脈を持ち、08年のリーマンショックにも対処した。
王氏が見据えているのは、米中新冷戦という前門の虎と、金融危機という後門のオオカミだ。王氏が、これまで通りの辣腕(らつわんを発揮することになるのか、いずれにしても建国70周年を迎える中国はこれから、歴史的な大波にさらされることになる。
編集委員 池永 達夫