“LGBTバブル”の要因 混乱を生む概念の曖昧さ
《 記 者 の 視 点 》
東京都などで組織する「東京都人権啓発活動ネットワーク協議会」は9日、憲法週間(5月1日から7日まで)の行事を中央区で開催した。「性自認や性的指向に関する人権問題についてあらためて考えるきっかけとなる」ことを狙い、ゲストにタレントのKABA.ちゃんを迎え、トークショーなどを行った。
演題は「知ってほしい、LGBTのこと」。KABA.ちゃんは性別適合手術を受け、男性から女性に戸籍を変えた「トランスジェンダー」だ。
冒頭、進行役が「LGBT(性的少数者)は何人に一人いるか」とクイズを出した。①20人に1人②200人に1人③2000人に1人―から一つ選ぶ。正解は①だという。
つまり、5%だというのだが、それがあたかも定説となっているかのように説明したことは不適切だったろう。
というのも、学術的に信頼のおけるデータがないからだ。LGBTについてはいろいろ調査が行われているが、その都度、出てくる数字が大きく変わり、どれが実態を正確に反映したものか分からない。
例えば電通は2012年、15年、18年とインターネットで調査しているが、それぞれ5・2%、7・6%、8・9%と、調査を重ねるごとに増えている。トークショーで出た「20人に1人」は12年調査を根拠にしたと考えられるが、LGBT啓発パンフレットで一番高い数値を使っている自治体もある。
北海道函館市は「8・9%(約11人に1人)存在するといわれており…ずっと身近な存在です」と、その多さを強調する。一方、多くのメディアはこれまで「13人に1人」(7・6%)を使って、LGBTブームを煽(あお)ってきた。
だが、電通調査を大きく下回る調査結果もある。国立社会保障・人口問題研究所が先月発表した調査結果(速報)は2・7%だった。昨年末、名古屋市が発表した調査では1・6%とさらに少ない。しかも、女性の場合、70歳以上は0・2%なのに、18歳~29歳では8・0%と、数値が大幅に違っている。
LGBT調査の数字がこれほど大きくぶれるのは、調査方法の違いもあるが、それよりも自分がLGBTかどうかを判断するときの基準となる「性的指向」「性自認」の概念が曖昧だからだ。法務省のホームページは、性的指向とは「人の恋愛・性愛がどういう対象に向かうのかを示す概念」と説明し、同性に向かうのが「同性愛者」だという。ところが、恋愛は異性に、性愛は同性に向かう人もいることが分かっている。
「性自認」は、「自分の性をどのように認識しているのか」を示す概念、つまり「こころの性」だという。「LGBTフレンドリー宣言」を行っている岐阜県関市の啓発パンフレットは、ゲイを「こころの性が男性で、男性を好きになる人」と説明するが、これだと、体が女性の人にも、男性同性愛者がいるということになり、頭が混乱する。
このように、LGBTの概念が曖昧かつ複雑なことから、メディアによってつくられたブームに煽られ「自分もLGBTではないか」と錯覚する人が増えることで、電通のようなインターネット調査はバブル化するのである。
社会部長 森田 清策