五輪のレガシーづくり推進のロンドン

競技施設を有効再利用

 2020年東京五輪の招致は、ロンドン五輪成功のノウハウを徹底的に学ぶことによって実現した。ロンドンは一昨年夏に開催された五輪大会後も引き続き五輪のレガシー(遺産)づくりに努めている。東京五輪が大会本番のみならず、長期的な経済効果、身障者を含め国民のスポーツ参加拡大、ボランティア活動の発展など、さまざまな波及効果をもたらすためにはロンドン五輪のレガシーづくりが参考となる。
(ロンドン・行天慎二)

会場跡地に公園整備

文化・教育の発信基地に

800

五輪公園整備後のイメージ(LLDCのホームぺージより)

 五輪レガシーづくりを担っているのは、大会前の2012年4月1日から始動しているロンドン市長の直属機関ロンドン・レガシー開発公社(LLDC)だ。LLDCが今、主として取り組んでいるのは、五輪施設の有効再利用、「クイーン・エリザベス・パーク」と改名された会場跡地(広さは226㌶)のオリンピック公園整備、五輪会場周辺の都市再開発計画の実行など。

 五輪施設ではメーンスタジアム、競泳センター、体育館、自転車競技場など8カ所の競技施設が残されて改修整備されているが、新設施設が大会後に無用の長物にならないように、国際競技会のような大きな大会だけでなく地元住民など一般市民も日ごろ気軽に利用できるようにしている。また、メディア・センターだった施設は「デジタル・ビジネス・センター」につくり替える計画案が今年11月半ばにLLDCによって承認された。来年夏に着工し、完成後は大学、カレッジ、ブリティッシュ・テレコムなどが入ったハイテク基地になる。

 オリンピック公園は動植物の生息地、庭園、オープン・スペース、水路などを設けて魅力ある行楽地にし、英国最大の都市型公園に変貌しようとしている。五輪会場があるロンドン東部のストラトフォードの街とその周辺は再開発が着実に進んでいる。駅は交通アクセスのハブになっており、隣接して大きなショッピングセンターが完成。今後は、選手村だった2800戸の住宅に加えて8000戸の住宅、学校3校、幼稚園9カ所、診療所3カ所などが建設される予定だが、ボリス・ジョンソン市長は昨年11月15日、6800戸の住宅建設を今年からスタートさせると発表した。

 ただ、五輪会場跡地の再開発は大会に押し寄せた内外の多くの人々を再度呼び戻すという狙いで進められており、集客力を高めることを目標にしている。ジョンソン市長は昨年12月4日、財務省によるインフラ整備投資計画の支援を受けてオリンピック公園の一角に文化複合施設を建設すると発表した。同施設にはロンドン市内の人気観光スポットになっているビクトリア・アルバート博物館、ロンドン大学などの分館が入る予定で、“オリンピコポリス”と呼ばれる文化・教育・ハイテク施設の発信基地を18年までに完成させる計画だ。

 その基本コンセプトは、成功した五輪大会の盛り上がりを一過性のものに終わらせることなく、地元と密着し環境に配慮した持続可能な都市づくり、多くの観光客が来る魅力ある新たな文化・スポーツ・ハイテク都市づくりにあると言える。

 他方、五輪大会を契機としたボランティア活動は現在も、全国各地でスポーツ・クラブ活動やコミュニティー活動へのボランティア参加推進プロジェクトを通じて継続発展している。政府主導で設立されたチャリティー団体「ジョイン・イン(参加しよう)」の呼び掛けに応じて、昨年の夏も約10万人が新規に登録し、地元のスポーツ教育活動やイベントを支援している。

 しかし、これまで順調に見えていたレガシーづくりだが、大会開催後1年余りが経過して問題点も見えてきた。英上院の五輪レガシー委員会が11月半ばに発表した報告書によると、

 ①4億2900万ポンド(約729億円)を費やして建設されたメーンスタジアムが十分に利用されていない。利用開始はラグビーW杯が開催される15年か、プロ・サッカークラブのウェスト・ハムが本拠地として使用する16年にずれ込む見通し。

 ②招致の主要公約だったスポーツ参加者の増加が実行できていない。1週間に1度参加するという目標に対して、29のスポーツ種目のうち20種目で参加者が減少。特に16~25歳の若者が消極的。

 ③外国からの投資はロンドンとその周辺地域に偏り、イングランド北部には恩恵が及んでいない――など。

 同委員会は政府がレガシーづくりに直接責任を持つようにレガシー担当大臣を任命するように要請した。これに対して、文化・メディア・スポーツ省の報道官は「向こう10年間、12年に鼓舞されて、スポーツ、コミュニティー、経済、東部ロンドン、障害者への認識と覚醒などの面で継続して改善していくつもりだ」とコメントした。

 東京五輪も20年の大会後の10年、20年を見据えた長期的なレガシーづくりを目指して今から実行案を準備していく必要がある。