米朝ハノイ会談“決裂” 韓国保守派の予測的中

“冷戦構図”の必要性強調

 米朝ハノイ会談が“決裂”して、北朝鮮の核問題は「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」の原点に回帰した。会談で未申告の秘密核施設の存在を暴かれて、金正恩労働党委員長は相当にうろたえたようだ。そのような相手に制裁緩和を許す米国ではない。

 この展開は北朝鮮支援“解禁”を待ち構えていた韓国の文在寅政権にとっては衝撃だった。対北支援に“オールイン”している文政府は思わずたたらを踏んだことだろう。しかし、文大統領がいくら驚愕(きょうがく)しようと、韓国全体が悲嘆に暮れているわけではない。韓国人の半分はこの結果を半ば歓迎、あるいは当然視している。

 東亜日報社が出す総合月刊誌「新東亜」(3月号)で元統一研究院院長の金泰宇(キムテウ)建陽(コニャン)大教授がこの展開を予言していた。金教授は「保守主義者中の保守主義者」と呼ばれ、「韓国の核武装の可能性を残しておく」というのが持論だ。ハノイ会談前に同誌のインタビューを受けた金教授は、「北朝鮮が非核化を受け入れて、正常国家化するという“ビッグディール”が行われる最良のシナリオの可能性は10%にすぎない」と予測していたのである。

 結果がこのように終わって、当面の危機は去ったが、ハノイ会談前には米朝が終戦協定で合意し、経済制裁が緩和されて、北の核が残されるという“最悪”の事態も予測されていた。そうなれば、文政権によって在韓米軍撤退、米韓同盟の解消に向かう流れの堰(せき)が切られる可能性があった。

 韓国のこのような“左傾”は、しかし、政権とその支持層だけの話である。文大統領の支持率が半分を切っているのはもっぱら「経済政策の失敗」が原因といわれているが、南北政策に反対している国民はやはり半分近くに達する。常識的に見て、韓国を北朝鮮のような国にしようと考える人はいない。

 南北統一は「民族の悲願」で反対する者はいないが、北主導の統一に賛成する者もいない。「親北派」は北朝鮮との「体制の競争」で自由民主主義、資本主義経済体制が個人独裁強権体制に負けるはずがないと思っている。韓国が北朝鮮を“開放された自由の国”へと導けると信じているのだ。共産主義と北朝鮮に対する認識が非常に甘いと言わざるを得ない。

 一方、韓国保守派は金教授が主張するように、「韓国・米国・日本」対「北朝鮮・中国・ロシア」の“冷戦構図”が必要だと考えている。「地政学的に大韓民国はそのように生まれた」からだ。北方の共産体制が続く限り、この構図を解消することはない。

 対日関係も「歴史を反省しない日本の破廉恥に怒らない国民はいないが、それでも日本を敵視すれば安保・国防政策が揺れる」として、「北の潜水艦活動を最もよく監視しているのが日本だ。米軍が出動する基地は日本にある。兵站(へいたん)基地、国連司令部の後方基地の役割も日本だ。日本が憎くても韓米日安保協力を可能にさせている」と金教授は説く。

 現実を直視すれば、日米は韓国の生命線である。これを破壊しようとするのは韓国を朝中露陣営に組み入れようという“陰謀”としか考えようがない。「韓半島から米国を追放しようとするのは中国の世界戦略」だ。この危機感が金教授をはじめとする保守派だけのものでないことを祈りたい。

 「米国が韓国を捨てる可能性は10%」と金教授は見ている。その際、韓国は自衛的核武装を検討しなければならなくなり、それは「日本の核武装」も誘発することになるという。韓国で左右を問わず信じられているシナリオだ。

 それもこれも保守が政権奪還できれば、解消されていく可能性が出てくる。「今回の政府は過ぎ去らなければならない。現政権が引き続き政権を取れば大韓民国に希望がない」と金教授は言う。次期大統領選挙まで3年。それを待てるだけの時間が韓国にあるか、はなはだ心もとない。

 編集委員 岩崎 哲