かつては指をなめた手で本や書類のページを…
かつては指をなめた手で本や書類のページをめくる光景をよく見掛けた。だが、そんな機会は最近少なくなった。
映画「砂の器」(1974年公開)の一場面。大阪市内の区役所を訪ねた丹波哲郎扮(ふん)する刑事が、ある男の戸籍を見ながら指にツバを付けてページをめくっている。そのシーンをDVD(2009年発売)で見ていた時に「汚い」と感じてしまった。
丹波の演技は見事なものだし、映画の中でも重要な場面であることもよく分かるのだが、汚いという印象は消えない。映画公開時、劇場で見た際には特に違和感はなかったので、指にツバを付ける習慣は1974年から2009年の間に少なくなったようだ。
大学の教授が、同じようにして本のページをめくって教えてくれた記憶はある。「老人になるとそんなふうになるのか」とは思ったが、汚いとの印象はなかった。
赤ちゃんは体内の水分が多いが、高齢になるに従って少なくなるのは自然の生理だ。ただ、清潔志向の急激な進行の結果、「指ツバ」の習慣を汚いと感じる人間が多くなっただけの話のようでもある。
一方で、指ツバはやりたくないものの、年齢の問題もあって、水分の補給なしにページをめくるのが困難になるケースもある。そこで、器に水を入れて、ハンカチをひたして備えている。電車内で本を読む機会もあるので、携帯用のウエットティッシュを持ち歩く。車内での指ツバはできれば避けたいからだ。