LGBT「自認」1.6%と少なく出た名古屋市調査を無視した「朝日」

◆電通調査は7・6%

 「性的少数者1・6%が自認」――こんな見出しを打った記事が「日本経済新聞」(昨年12月18日付)夕刊に載った。「東京」にも同様の記事があった。名古屋市が昨年7月、市民1万人(18歳以上、有効回収4655件)を対象に行った大規模調査の結果だ。

 今ブームのLGBT(性的少数者)運動を支援する新聞は、同性愛者などが予想以上に多いことの裏付けとして、「7・6%」と出た電通調査(2015年)を頻繁に紹介してきた。

 例えば、「朝日」(昨年10月2日付)はLGBTについて説明する「キーワード」で「電通が2015年に約7万人を対象に実施した調査では、7・6%(約13人に1人)が該当すると答えた」とした。冒頭の記事は、この電通調査の数字を出した上で、「調査方法が違うため単純に比較できない」と、市のコメントを掲載した。確かに、同じテーマでも、調査方法が違えば結果に差が出ることはあるが、7・6%と1・6%では差があり過ぎる。

 定説と大きく違った調査結果が出たのであれば、それを報道するのは報道機関の義務である。当然、他の新聞も報道しているだろうと思い確認したが載っていない。見落としや違う日付で載る可能性もあるので、新聞記事の検索サービス「日経テレコン」で調べた。

 名古屋市調査について出てきたのは日経と東京のほか、中部版の「読売」「毎日」だけ。「朝日」「産経」は出てこない。性的少数者について、自治体が大規模調査を行い、しかも定説に疑問を投げ掛ける調査結果を全国に報じなかった新聞社には、LGBT運動にマイナスとなるとの判断があったのではないか。そうでなくとも、報道機関としての義務を果たしたとは言えまい。東京が報道したのは、名古屋市に本社を置く中日新聞社と関係が深いからだろう。

◆相違点は目的と方法

 では、名古屋市と電通では、どちらが実態をより正確に反映した調査なのか。それを判断するポイントは調査目的と質問方法にある。

 名古屋市の場合、「あなたご自身は、性的少数者の当事者ですか」と質問し、「いいえ」「はい」の二者択一にした上、「答えたくない人は無記入」と、極めてシンプルだ。この結果、「1・6%」となったが、同市が性的少数者が少なくなるよう、意図的に質問項目を調整したとは思えない。何のメリットもないからだ。

 一方、電通調査は、性的少数者を対象にした市場戦略の必要性を訴える一環として、7万人にネット調査した。広告会社としては性的少数者が多ければ多いほどいいわけだ。その結果が「7・6%」となり、その商品・サービス市場規模は「5・94兆円」とニュースリリースで発表した。

 注目すべきは郵送送付・回収の名古屋市と違って、ネットを使った調査である上、性的少数者の分類が多岐にわたっていることだ。詳細は省くが、この方法だと数値が大きく揺れることは、電通が2012年に行った調査と比較すると一目瞭然だ。

 12年調査を見ると、LGBTは5・2%。たった3年で1・5倍になっているのだ。これだけでも調査の信頼性に疑問符が付くが、中身を見ると、さらに首をかしげてしまう。

◆信憑性欠く調査結果

 電通のニュースリリースは、女性同性愛者(L)、男性同性愛者(G)、両性愛者(B)、トランスジェンダー(L)それぞれの数値は公表していないが、筆者がネット情報を基に分析したところ、12年調査と15年調査を比較すると、Lは5倍、G3倍、T約6倍になり、Bは半分以下に減っている。同じ調査で、これだけ結果の揺れが大きい調査を信用する方がおかしいのだ。

 これで多くの新聞が名古屋市の調査結果を全国的に報道しなかった理由が分かろうというもの。ネット調査で信憑(しんぴょう)性に欠け、しかも広告会社の利益誘導が疑われる調査結果を報道してきた各紙が自らの報道の偏りがあからさまになるのを避けるためだったからではないか。その筆頭は、LGBT支援に力を入れながらまったく報道しなかった朝日なのだ。

(森田清策)