平成最大の失策として天安門事件後の「天皇陛下訪中」を挙げた産経
◆「停滞」「敗北」の30年
年が改まり、平成最後の年の初め元日の新聞論調(社説や主張)はいつもの年でも、その年の一年を展望する視点から日本と世界を論じるものが多いが、今年はさらに平成の30年を総括した上で今年を論じたものが目立った。
まず、平成の30年の総括について。日経は冒頭から、いきなり「日本は平成の『停滞の30年』を脱してどう針路をとるべきだろうか」と問い掛ける。平成を「停滞の30年」と総括したわけだが、その説明は省略した。
これに対して、30年の総括を論拠を示してから丁寧に説き起こしたのが読売と産経(乾正人論説委員長の署名記事)だ。読売は「1989年に世界の15%だった日本のGDPは6%に低下し、中国に抜かれて3位となった。人口は減少に転じ、労働力不足が深刻な地方は社会基盤の維持さえ困難になりつつある」ことを挙げた。この結果、平成への改元直後の世論調査で「安定」と「発展」が「不安定」と「停滞」を上回っていたのに、昨年11月の調査ではこれが逆転した。平成時代の印象は「不安定」「停滞」だとした上で「国民の後ろ向きの気持ちをどう払拭するのか。夏の参院選で与野党は具体策を示してほしい」と求めたのである。
日経、読売が経済指標を基に平成時代を「停滞」と総括したのに対して、産経は「『敗北』の時代」だと断ずる、ある財界人の述懐に衝撃を受け、考えを変え同意した。「平成元年、世界全体に占める日本の国内総生産(GDP)は、米国の28%に次ぐ15%を占め」た。「(米国は)ITに活路を見いだして再び成長軌道に乗り、GDP世界25%を保って」いるのに「政治も混迷した日本のGDPは世界比6%まで大きく後退し」た。「数字は平成日本の『敗北』を冷酷に物語っている」というのだ。
◆厳しい試練の時代に
確かに経済指標だけ見ればその通りかもしれないが、筆者は乾氏が翻意前に抱いていた、東日本大震災など「大きな厄災に見舞われたとはいえ、日本はおおむね『平』和で、バブル時代の狂騒を経て『成』熟した社会になったなぁ」との総括に同感である。
いずれにせよ、問題はこれからの日本がどう針路を取るかだ。世界温暖化防止のパリ協定に従わないなど内向きの政治に転じた米国。英国離脱で揺れる欧州連合(EU)、求心力低下の独仏首脳、不安定な中東情勢、世界中に軋轢(あつれき)を広げる中国の横暴など「世界の安定を支えてきた軸が消えつつある」(読売)、「世界は目まぐるしい変化の渦中にある」「不確実性をはらむ年だ」(日経)。「予測不能の時代に突入することだろう」(産経)と3紙とも厳しい試練の時代への気構えを求めている。
最大の問題要因は3紙とも中国を挙げている。
読売は中国が「威圧外交を展開し、軍事力を著しく増強した。他国のハイテク技術窃取、不公正な経済慣行、国内の厳しい統制は加速している」と指摘。「このままでは行き詰まることを、日本は習氏ら指導部に指摘すべきだ」と求める。対米関係の悪化で「今は日中が率直に話し合える機会」だと強調するのである。
米国の「政府や議会、有識者に、『中国は豊かになれば民主化する、という従来の対処法は誤りだった』という見方が広がって」いるという日経は「こうした地政学リスクに日本は立ち向か」えと、6月に大阪で開かれる20ヵ国・地域(G20)首脳会議議長を務める安倍首相に、米中両首脳に働き掛ける責任を強調。「日米同盟を外交の基軸としつつ、中国との関係改善も重要だ」と求めるが、いささか虫がよすぎる話なのではないか。
◆選択を迫られる日本
産経は平成元年に、人民解放軍が市民や学生を虐殺した天安門事件で、国際的に孤立した中国に日本が手をさしのべ「天皇陛下訪中」などを実現したのは「取り返しのつかない失策」だったと批判。米国の本音が明白なのに「日本は米中の狭間(はざま)でうまく立ち回れる、と今でも思っている御仁(ごじん)は、よほどのお人よし」だと断じた。
トランプ氏はいずれ「俺をとるのか、習近平をとるのか」と二者択一を迫るはずだと指摘するが、十分にあり得る話だ。日本と世界はめでたさも吹っ飛ぶ、誠に厳しい年明けを迎えたのだ。他紙の社説タイトルは朝日「政治改革30年の先に」、毎日「次の扉へ/AIと民主主義」、小紙「新たな世界的互恵関係の構築を」である。
(堀本和博)