ハイテクが起こす問題をハイテクで解決できるか疑問なアエラ記事

◆投資フォーラム盛況

 アエラ9月24日号「個人の体験が進歩を後押し 中国テクノロジー日進月歩の原動力」は、中国でハイテク開発や起業の目的に福祉充実などを挙げる起業家も少なくないという記事。リード文で「ITの進化が速い中国。最前線の技術には投資も集まる。若い世代ではITで起業をめざす。利益と社会貢献の両得をねらう人たちも多い」とあるように、若い起業家を例に取る。

 今年6月、中国深圳で行われた「中国社会的企業・社会的投資フォーラム」には、中国全土から起業家や投資家ら約1000人が集まった。起業家でAI技術者の黄(ファン)剣峰(ジェンフォン)さん(39)は、この席で「いま、中国では9割以上の老人が自分の家で最期を迎えています。彼らは老人ホームには行かない。でも子どもたちは外で仕事をしています」と訴え、開発中のお年寄り相手のロボット「康益三宝」(健康に三つの利益、の意)への投資を募った。

 フォーラムの様子を記事では「利益だけでなく、社会貢献もめざす社会的起業。貧困や高齢化、環境など社会的課題がてんこ盛りの中国では関心が高まっているが、今回の特徴はITをはじめとするテクノロジーを利用した企業が非常に多いことだ」と記す。黄さんの事業にも、このフォーラムで1千万元(約1億6000万円)の投資が決まったという。

 黄さんは、ロボット開発の動機を「両親が出稼ぎをしていて、おばあさんに育ててもらったんです。大学の時に亡くなったんですが、何も恩返しができないままにそばにいてあげられず、すごく悔しかった。こんな思いを他の人にさせたくない」と話す。こういった「個人の体験」が投資家の関心を呼び、開発費用が集められるようになり、中国テクノロジーの日進月歩の原動力になっている―というのが話の筋だ。

◆一昔前の「ロボット」

 果たして、中国社会の現実を的確に捉えたリポートか、以下2点、疑問に思う。

 ①くだんの黄さんは「ロボットは目など顔の表情もあり、会話もできる。血圧計測や一緒にダンスをすることも可能だ」という。しかしロボットは、掲載写真を見る限り、日本の20年ほど前(一昔前)のロボット技術が内蔵されたもので、お年寄りに対する安全性、機能性に配慮し市場に出回るようにするにはかなりの年月、改良に改良を加えなくてはならない。

 またロボットの機能として「24時間モニターし、万一の時には病院につながり医師らが駆けつける」という。わが国でもこの種のロボット使用のケースはあるがごく少ない。それはロボット関係のコストが治療コストと折り合わないし、いつでも駆け付ける用意の医師側の負担は極めて大きいからだ。これらは、医療行為のソフト部分で、それらをどう解消するのか。

 黄さんの「個人の体験」はその通りなのだろうが、投資を引き出すためのうたい文句の域を出ないように思う。

 ②また記事の別枠で、中国に「ネット」の概念を持ち込んだ丁健氏へのインタビューが載っているが、その中で丁氏は図らずも「ハイテクがもたらした問題はハイテクで解決しなければいけない」「科学の進歩で、技術が社会問題の解決をもたらす」と話し、ハイテク万能を強調している。

 中国は政府が主導し、重点地域・分野に集中投資し、ハイテク技術を駆使し経済を成長させてきたが、その結果、煙害をはじめさまざまな公害、貧富の格差拡大などの社会的ひずみを生み出している。その解決には“悪臭”にフタをするさらなるハイテクを持ち込むことだというのでは、ハイテク優越の社会建設は変わらない。

◆機械との親和性必要

 わが国では1980年代、産業ロボットが最盛だったが、今世紀に入って地域社会にサービスを提供するロボットの普及が課題となった。それを企業が手掛けるには、ロボットの流通量を増やし、多数の人にサービスを提供することが必要で、安全性や人間と機械(ハイテク)間の親和性など、さまざまな点で修復が求められている。

 くだんの黄さんの思いは買いたいが、実際、ロボットの市中での実用化は、単にハイテク技術を重ねるだけで済まない、福祉社会を指向する世論形成などが、まず欠かせないのである。

(片上晴彦)

●=土へんに川