企業好決算に読売「景気実感との溝埋めよ」、日経は「収益力向上を」

◆未来への投資不可欠

 企業の好決算発表が相次ぎ、東京証券取引所に上場する企業全体の2018年3月期は、2年連続で最高益になったようである。日経によると、純利益は前期比3割増で、5年前の3倍という。

 こうした企業決算について、これまでに社説を掲載したのは読売(13日付)「好業績と景気実感の溝埋めよ」と日経(15日付)「企業は足踏みせずさらに収益力高めよ」の2紙である。

 見出しが示すように、読売は「さえない」景気実感と絡め、その溝をどう埋めるか、「官民を挙げて取り組むべき課題である」と強調。一方の日経は、経済紙らしく、ソニーやヤマトホールディングスなど個別企業の復活ぶりなどを分析しながら、「稼ぐ力が一段と高まってきた」と評価し、今後も収益力向上への努力を続けるよう求めた。それぞれに「らしさ」が出た内容になっている。

 まず、読売だが、同紙も日本企業の海外での「稼ぐ力」が高まり、収益を支えていることに、「日本経済の本格回復に向けた明るい材料ではある」と指摘する。ただ、日本が得意とするモノ作りの分野では中国の台頭が著しいとして、人工知能(AI)など「未来への投資に注力しなければ、生き残りは難しい」と強調する。

◆多角的な雇用改善を

 内需関連企業でも苦戦するケースが見られ、大手小売業では訪日外国人客の増加が追い風になる一方で、日本の消費者の購買意欲が湿りがちなことから、経営基盤強化のため大規模な合理化を迫られている会社も多い。

 好決算の発表が相次ぐが、現実は必ずしも順風満帆というわけでないことで、同紙が最も重きを置くのは、いかに「景気の実感」を高めるかで、国内総生産(GDP)の6割を占める個人消費が盛り上がりを欠いたままでは、「持続的成長は望めまい」というわけである。

 結局、個人消費を高めるにはどうしたら良いかという問題になり、既に指摘されていることだが、「会社が稼いだ利益を従業員に還元すること」(読売)が重要ということである。それによって消費が促され、それが新たな生産を喚起し、経済の好循環につながるからである。

 読売は、「経営者には、十分な賃上げはもとより、従業員の能力を高める研修、非正規社員の正社員のへの登用など、多角的な雇用改善への取り組みを求めたい」としたが、同感である。

 もちろん、企業の取り組みだけでは不足なため、同紙は政府に対して、企業の国内投資を促す支援策の実施、具体的には人口減に伴う人手不足を見据えたAIやロボット開発の支援策、外国人材の積極活用などを求めた。

 もっとも、政府には企業支援にとどまらず、消費が盛り上がらない原因(年金への将来不安など)を究明した上での対策も必要であろう。

◆手元資金の活用強調

 日経は、読売より楽観的である。18年3月期は「事業構造を組み替え、効率よく稼ぐ経営努力が実ってきた」と積極評価。非製造業も訪日外国人客の伸びもあり、「力をつけている」と。

 今後についても、19年3月期の業績予想では円高や米中貿易摩擦などから経営者は慎重姿勢を見せているが、「外部環境の変化に過度に身構えず、企業は自ら成長を生み出す手を打ち続けるべきだ」と鼓舞する。

 自動車の電動化など需要の伸びる分野に先手を打って投資し、1ドル=100円でも増益を見込む日本電産を例に、「事業環境の波をはね返す力強い成長戦略が広がってほしい」とエールを送るのである。

 同紙がそう指摘するのも、「過去20年で日本企業と米欧企業との差は大きく開いた。アジア企業も急成長している」との認識からで、「デジタル時代は競争環境を根底から変える。世界で競うにはスピード感が必要だ」というわけである。

 そこで、同紙が強調するのは、上場企業で100兆円規模ある手元資金を生かすこと。成長分野への積極投資や、必要ならM&A(合併・買収)も一手とし、「生産性を高め、賃上げで働き手にも報いていければ、日本経済に好循環を生み出す起点になる」と。やや楽観的過ぎるきらいはあるが、経済紙としての面目躍如といった感である。

(床井明男)