教会民主化進めるローマ法王
“バチカンの春”到来いまだ遠く
米誌タイムは11日、恒例の「今年の人」にローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王フランシスコを選出したと発表した。南米教会初のローマ法王は世界最大の組織、教会に新しい風を送り込んだことは間違いない。世界に12億人以上の信者を誇る教会のトップに就任したフランシスコ法王は行き詰まった教会の機構改革に乗り出してきている。来年上半期にはバチカンの改革の輪郭が見えてくるものと予想される。フランシスコ法王が推進する教会の民主化(“バチカンの春”)の見通しとその課題について紹介する。
(ウィーン・小川 敏)
使徒憲章を大幅改正へ
聖職者の性犯罪防止強化/財務省新設し経済を統括
ローマ・カトリック教会総本山、バチカン(ローマ法王庁)で3日から開かれていた第2回のバチカン改革審議会の会議が終わったばかりだ。バチカン放送独語電子版によると、バチカンは将来、教会の経済活動を統括する財務省の創設を検討する一方、聖職者の未成年者への性的虐待問題を解決し、防止するため独自の委員会を設ける方針という。同会合にはフランシスコ法王も参席した。
改革審議会関係者によると、「将来、宗教事業協会、通称バチカン銀行(IOR)、資金管理部門(APSA)、聖座財務部など教会の経済活動を統括する財務省を創設すること、聖職者の性犯罪を防止するため聖職者、神学生、宗教者への教育強化と児童保護を推進する独立の委員会を立ち上げることなどが話し合われた」という。
フランシスコ法王は4月、8人の枢機卿から構成された提言グループ(C8)を創設し、法王庁の改革(使徒憲章=Paster Bonusの改正)に取り組むことを明らかにした。10月に第1回の会合、今月3日から2回目、そして来年2月中旬、3回目の会合が開催される予定だ。
ローマ法王フランシスコは来年2月17、18日の両日、特別枢機卿会議を開催する。同時に、22日には新しい枢機卿を任命する予定だ。枢機卿会議の目的はバチカン改革審議会の報告について世界の枢機卿たちと話し合い、具体的な改革を決定する。 バチカン筋によると、バチカン改革は現行の使徒憲章(1988年)の部分刷新ではなく、大規模な改革となる可能性があるという。
フランシスコ法王はコンクラーベ(法王選出会議)の直前に開かれた枢機卿会議で法王庁の改革を強く主張し、「福音を述べ伝えるためには、教会は(垣根から)飛び出さなければならない。自己中心的な教会はイエスを自身の目的のために利用し、イエスを外に出さない。これは病気だ。教会機関のさまざまな悪なる現象はそこに原因がある。この自己中心的、ナルシストのような教会の刷新が必要だ」と檄(げき)を飛ばした。この檄が南米初の法王誕生に大きなインパクトを与えたといわれている。フランシスコ法王には「このままいけばカトリック教会は崩壊してしまう」といった危機感が強い。
法王庁のナンバー2、新国務長官のピエトロ・パロリン大司教(58)は先日、べネズエラ日刊紙の質問に答え、「カトリック教会聖職者の独身制は教義ではなく、教会の伝統にすぎない。だから見直しは可能だ」と述べ、聖職者の独身制廃止を示唆するなど、バチカンの改革に対する期待は教会内外で高まってきている。
バチカン組織の非中央集権化、現場の司教会議の権限強化など避けて通れない課題が山積している。その一方、既得の権限を失いたくない勢力がバチカン内には多数いる。それだけに、フランシスコ法王の改革(バチカンの春)は犠牲なくしては貫徹できない難事業だろう。
前法王べネディクト16世が昨年10月11日から始めた「信仰の年」が先月24日終わった。それを受け、フランシスコ法王は28日、使徒的勧告「エヴァンジェリ・ガウディウム」(福音の喜び)を発表し、世界のカトリック信者たちに「イエスの福音を喜びをもって伝えていこう」と呼び掛けた。フランシスコ法王はバチカンの改革を履行し、カトリック教会の再宣教時代を迎えたいと願っているわけだ。“バチカンの春”の行方が注目される。