外国勢力介入招く「外兵借用」 安保で国論分裂の韓国

サード反対は中国の思うツボ

 「月刊朝鮮」(2月号)に黄炳茂(ファンビョンム)国防大名誉教授が「外兵借用の得と失」を寄せており、韓国の安全保障政策での国論分裂を取り上げている。

 黄教授は、「韓半島は周辺強国の勢力が交差する地域だ。この地政学的理由のため、1882年の壬午事変から現在まで、日本植民地期と軍政期を除き、政府は好むと好まざるとにかかわらず、安保のために外国軍を借りる『外兵借用』を行ってきた」とし、結果的に軍事介入を招き、外国勢力同士の戦場となってしまった例として、旧韓末の日清戦争や植民地解放後の韓国動乱を挙げた。

 こうしたことから安保上の歴史的教訓として、「内部が脆弱(ぜいじゃく)な時、外国勢力が介入する。外国勢力を排除するために一番最初にしなければならないことは内憂(国論分裂)を防止することだ」と黄教授は強調する。

 大統領弾劾で韓国はまさに分裂状態に陥っている。朴槿恵(パククネ)大統領の退陣を求める左派勢力は、朴政権が執った政策をことごとく否定する。安保で言えば、サード(高高度防衛ミサイル)配置や日本との秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)への反対である。

 こうした国論分裂に付け込もうとしているのが中国だ。韓国と米国がもっぱら北朝鮮の核・ミサイルへの対応としてサード配置を決めたが、付随するレーダーが大陸深部まで届くといって、中国は激しく反発し、メディアから韓国芸能人を締め出したり、化粧品などの中国輸出に厳しい基準を適用したりする、いわゆる「限韓令」で韓国を締め付けている。

 かつて、何度も中韓首脳会談を行い、「抗日戦勝利パレード」では天安門に中韓両首脳が並んで立ち“蜜月”をアピールしていた韓国外交は今や見る影もない。それどころか、中国外相は韓国大使の面会を断りながら、訪中した野党議員の面会は許し、サード反対に理解を示させるなど、韓国の国論分裂をあおっている始末だ。

 大統領を目指す有力候補者らも異口同音にサード反対を明らかにしている。これほど中国から“裏切り”と圧迫を受けながら、韓国自身を防衛するサードに反対するとは理解に苦しむ。将来的な南北統一を考えれば、北朝鮮に一定の影響力を持つ中国とは決定的な対立関係になりたくないという姿勢が反映したものだが、中国の思うツボであろう。

 黄教授は、単にサードが「対北朝鮮用という弁解性の外交」を行うのではなく、朝鮮半島を緩衝地帯としたい中国にとっても「半島の平和体制構築」が利益であることを積極的に訴えていかなければならないと説いている。いたずらに中国側に立って、サードに反対するのは「事大外交」にすぎないというわけだが、「中国の利益にも資する」という説明自体が「弁解性」を帯びており、韓国の地政学的制限が感じられるものだ。

 日本との安保協力についても黄教授は、「被害と敗北意識を捨てて未来に向かった自信を持たなければならない」と主張する。やはり有力な大統領候補者らはGSOMIAに反対しているが、「日本との軍事情報共有および信頼構築を通じて、北核とミサイル脅威への共同対応」をする上で必要だと訴える。

 サード反対もGSOMIA反対も、突き詰めれば「利敵行為」だ。北朝鮮や中国にとって都合がいい話であり、むしろ韓国を危うくする。「サードは安保問題であり、超党派的対処が必須だ。安保ポピュリズム、政争化は外国勢力の干渉を招く」と黄教授は警告するが、今のところ、大統領レースのトップを走る共に民主党の文在寅(ムンジェイン)氏にこの警告は届かない。というより文氏はむしろ安保ポピュリズムを駆使していると言っていい。

 文氏は竹島(韓国名・独島)に上陸したり、釜山の日本領事館前に設置された慰安婦像を訪ねたり、一昨年の日韓合意を破棄せよと訴えている。潘基文(パンギムン)前国連事務総長が出馬を取りやめて、今や「文一強」と言われる中で、国論分裂を唆していては外国勢力が付け入るスキをつくる。むしろ、それこそが文氏や支持勢力の狙いであるとすれば、深刻な事態だ。

 編集委員 岩崎 哲