文氏が大統領に不適任な理由

防衛力解体され北の“人質”に

 韓国では選挙戦や候補選びの途中で降板することを「落馬」という。まさに潘基文(パンギムン)前国連事務総長の「不出馬」は落馬というに等しい。一時は世論調査でトップに立ったこともあり、候補擁立に苦慮していた保守陣営からは期待も寄せられたが、親族の不正疑惑や本人の煮え切らない態度を韓国メディアに攻撃され、ついに音を上げ、靴底を払って、さっさと引っ込んでしまった。

 「世界大統領」(韓国では事務総長をそう呼ぶ)を務め上げ、鳴り物入りの凱旋(がいせん)帰国で歓迎されると思いきや、よってたかって引きずり降ろされた格好だ。「陰湿な攻撃、虚偽ニュースのために名誉が傷つけられた」と出馬断念の理由を語っているが、潘氏は10年間留守をしていた間に、韓国がハイエナやライオンが獲物を狙うサバンナと化していたことに気付かなかったのだろう。もっとも、「歴代最低の事務総長」と酷評され、国連のネポティズム(縁故主義)を助長させた潘氏では最初から大統領候補は無理だったが。

 潘氏の“落馬”で俄然(がぜん)有利となったのが、野党共に民主党の文在寅(ムンジェイン)氏である。文氏は盧武鉉(ノムヒョン)政権でナンバー2の大統領秘書室長を務め、前回の大統領選に立候補し、僅差で朴槿恵(パククネ)氏に敗れた。盧武鉉氏と同じく人権派弁護士出身である。

 朴槿恵弾劾につながった「崔順実(チェスンシル)ゲート」が炸裂(さくれつ)する前、文氏に関わるスキャンダルが発生していた。2007年、北朝鮮に対する国連人権決議案の表決が行われる際に、盧武鉉政権は事前に「北朝鮮の意向を確認」し、その結果、韓国は国連決議を棄権していた疑いが浮上したのだ。この時、北にお伺いを立てるよう盧大統領に促したのが文氏である。

 これは当時国家情報院長だった李炳浩(イビョンホ)氏が回顧録で暴露したもので、国会の国政監査の場で証言もしている。これで文氏の前途は絶たれた感があった。「大統領としての資質があるのか」とメディアで批判が始まった。

 だが、その時、廃棄された崔順実氏のタブレットPCをあるメディアが入手し、そこに都合よく、消去されずに数々の「国政壟断(ろうだん)」を示す内容が残されていたことから、大統領退陣を迫る大騒動になったのだ。まるで文在寅問題隠しのための「爆風消火」だと言われた。

 そうした文氏に対して保守陣営は危機感を強めている。元月刊朝鮮編集長でネットメディア「趙甲済(チョガプチェ)ドットコム」を主宰する趙甲済氏が、「文在寅が大統領になってはならない12の理由」(2月6日付)をアップしている。

 理由の幾つかを挙げてみると、文氏は、▽対北国連決議に反対するのはもちろん、サード(高高度防衛ミサイル)配置に反対▽開城工業団地閉鎖に反対▽連邦制統一を推進▽国家保安法廃止▽急進左翼の統合進歩党解散に反対▽日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)に反対している。

 趙氏は「これをまとめれば、おのずと『利敵行為者』という結論に至る」とし、「祖国の害になり、北朝鮮を利し、自由と法治を核心価値とする大韓民国のアイデンティティーと国益に反する」と断じている。

 その文氏が大統領になれば、▽防衛能力が解体された韓国は北朝鮮の“人質”になる▽“親日魔女狩り”で功労者に恥をかかせ▽大企業敵視政策で本社を海外に移す企業が増え▽強硬な労組など左翼団体の跋扈(ばっこ)で法秩序が崩壊する―ことになるだろうと警告する。

 だが、こうした意見は韓国では朴槿恵糾弾の声にかき消されて聞こえない。メディアも「相互批判と権力牽制を放棄して、同じ声を出す。(略)メディアが真偽を分けず、むしろ国民の分別力を壊しており、覚醒している人でない限りだまされる」状況だと嘆いているのだ。

 “集団ヒステリー”にかかって「左へ倣え」状態の韓国メディアの中で趙氏らの声はどれほど届くのか、甚だ心もとない。

 編集委員 岩崎 哲