最近見たテレビのバラエティー番組。人気予備校…
最近見たテレビのバラエティー番組。人気予備校講師の林修氏が登場し、読書についての話題で「同じ本を何度も繰り返して読む」と発言した。
それを隣の席で聞いた中堅お笑い芸人が、ポカンとした表情をしていたのが印象に残った。「繰り返して読むような読書の仕方があるのか?」「何でそんな面倒なことをするの?」といった感じ。
「本は一度読めば十分」という考え方は、今は普通だ。情報なりストーリーなりが分かれば十分だからだ。だが「再読こそ読書の醍醐味(だいごみ)」という考え方もある。たやすくは理解しにくい本を何度も読む。1度目に分からなかったものが、2度目には見えてくる。
同じことを3度、4度と繰り返すと、3度目と4度目の印象が違ってくることもある。相手は同じ本なのに、一回一回の読書が生き物のように表情を変える。
情報やストーリーを超えたものが名著にはある。「一度読めば終わり」というタイプの本は物足りない、と思えてもくる。繰り返し読まれる本が名著、その中で100年単位でなお残るものが古典ということだろうか。
『万葉集』であれ『平家物語』であれ、古典は長い時間によるテストをくぐり抜けて来た。『万葉集』は1200年に至る長期間の再読を経て現在も読まれ続けている。「『万葉集』は十分に吸収したので、今更不要」という声が大きくなるまで、汲(く)み尽くせぬ謎と魅力を残しつつ、古典は古典であり続けるのだろう。