「黒揚羽一閃し庭一閃す」(後藤比奈夫)…


 「黒揚羽一閃し庭一閃す」(後藤比奈夫)。都会でも、公園や家の庭に花木が植えられていて、花が咲くのを見るのは当たり前の光景。だが、その花を飛び回るチョウはあまり見かけない。

 以前は春になれば、白い羽を持ったモンシロチョウが、菜の花や野の花の蜜を求めて飛び回っていた。日本で一番ポピュラーなチョウと言えるだろう。あまり姿が見られないのは残念である。

 気流子は幼少時代、自然が豊かな地方で過ごした。そのため、昆虫を捕らえることに夢中になった時期がある。昆虫採集を趣味にする者は、チョウなどの鱗翅類(りんしるい)専門とカブトムシなどの甲虫類専門に分かれることが多いようだ。

 気流子は甲虫類の方だが、それでも標本にした時のチョウの羽の美しさには羨望(せんぼう)を禁じ得なかった。中でも、カラスアゲハやアオスジアゲハ、国蝶(こくちょう)のオオムラサキは一度は捕まえてみたいと思った。

 特にアオスジアゲハは、飛び方が素早く、姿が妖精のように神秘的だったので、あこがれのような感情を抱いた。幼虫も神社などに植えてあるクスノキの葉を食べるので、どこか他のチョウとは違った高貴さを感じていた。

 先日、そのアオスジアゲハの少し羽が欠けていた死骸(しがい)を舗道で見かけた。最近では滅多に見ないので、懐かしい気持ちになった。自然環境の変化が虫の生態にも影響を与えてしまっているが、こうした生き物が生息できる自然を大切にしたいと改めて思わされた。