福島・南相馬、津波被災地で復興願い神楽奉納
古里と仲間を失った地元青年団の手で30年ぶりに復活
東日本大震災の津波により被災した福島県南相馬市原町区雫地区の津神社で2日、同地区に伝わる「雫神楽」の奉納が行われた。神楽は震災からの復興を願う地元青年団の手で約30年ぶりに復活したもので、集まった住民約50人は激しく舞い踊る姿を真剣に見守った。
雫神楽は約100年前から行われていたと言われ、無病息災などを願い、地元青年団が毎年正月に奉納していた。しかし、踊り手の若者の数が減ったため、1983年を最後にいったん途絶えた。
「われわれの世代が受け継がなければ、地域の伝統が廃れてしまう」。雫青年団団長の高田貴浩さん(34)は震災前、青年団の先輩だった高田憲幸さん当時(32)に相談。憲幸さんは「俺らの手でいつかやろうな」と約束してくれた。
しかし、震災が発生、津波が雫地区沿岸部を襲い、憲幸さんら25人をのみ込んだ。憲幸さんの遺体はその後、地区内の田んぼで発見された。
古里と仲間を同時に失った貴浩さん。消防団員として行方不明者の捜索に当たっていた時、地区の集落センターで偶然、泥まみれの獅子頭を見つけた。「その目は『神楽を復活させろ』と語り掛けているようだった」
震災から5度目の正月を迎えた2日朝、津神社には貴浩さんのほか5人の青年団員の姿があった。「お先に立たっしゃるは伊勢天照皇大神宮」。太鼓役が威勢よく口上を読み上げると、大きな獅子頭が荒々しく舞い踊った。先頭で踊るのは貴浩さんだ。
「これでやっと天国にいる憲幸君との約束を果たせた」。奉納後、安堵(あんど)の表情を浮かべる貴浩さん。「今も震災の傷痕が残る雫地区だが、神楽復活を機に、地域をもっと元気にしていきたい」と言葉に力を込めた。