食欲の秋である。この夏94歳で亡くなった…


 食欲の秋である。この夏94歳で亡くなった作家の阿川弘之さんは、食通で健啖家だった。亡くなる前日、娘の阿川佐和子さんが病室に持ってきたローストビーフを3枚平らげ、「次はステーキが食いたい」と呟き、にんまり笑ったと佐和子さんが明かしている。

 読売文学賞を受賞した阿川さんの随筆集『食味風々録』(新潮社)に「弁当恋しや」というのがある。職業柄家で仕事をすることが多く、勤め人のように弁当を食べる機会がないため、それが羨ましかったらしい。

 「散歩の途中、家の建築現場で作業員たちが昼の弁当を使つてゐる場面に行き合ふと、旨さうだなあと思ふ。おかずは何か、ちょっと覗きこみたくなる。一度、じろりと睨み返された」という。その場面が目に浮かぶようだ。

 NHKの「サラメシ」という番組がある。愛妻弁当から自己愛弁当まで、美味しそうな弁当が登場する。

 それに比べスーパーで売られている弁当が、中身にかかわらず美味しいと思うことが少ないのはどうしてか。一つはプラスチックの容器に原因があるように思う。油がべとついていたりするのを見ると、それだけで食欲が減退する。

 理想的なのは、昔よく使われていた杉の薄板で作った折り詰めだろう。通気性があり杉の香りも食欲をアップさせる。駅弁などではまだ使われていると思うが、もっと利用できないものか。国内産の杉で作れば、林業の育成にもつながるのだけれど。