「悩み苦しんでいるとき、あるいは精神が…
「悩み苦しんでいるとき、あるいは精神が彷徨えるときなど、わたしはいつも美術品に触れることで、自分を見失わずにいられた気がします」。ノーベル医学生理学賞の受賞が決まった大村智さんが著書『人生に美を添えて』(生活の友社)で述べている。
北里大特別栄誉教授の大村さんが、開発に貢献した抗寄生虫薬「イベルメクチン」は多くの人々と家畜の命を救ってきた。が、医療活動の一方で、念頭を離れなかったのは心のケア。
「これからの病院は病気を診断し、治療するだけでなく、心を癒やす機能があるべきだ」と考え、埼玉県北本市にある北里大学メディカルセンターでは壁面に絵を飾った。
大村さんが絵を集めるようになったのは、30代の助教授の頃。専門の論文を書いたり議論したりしていると、緊張感で家に帰っても寝付けなかった。が、野田九浦の「芭蕉」に出合い、気に入って購入。
見ていると安らぎを覚え、「どんなに助けられたことか」と回想している。休みが1日あれば都内の美術館めぐり、2~3日ある時には温泉と陶芸家の窯を訪ねたという。仕事で海外を旅した時も美術館に行った。
コレクションを公開するために2007年、故郷の山梨県韮崎市に韮崎大村美術館を開設。翌年施設と収蔵品を同市に寄贈した。現在、館長を務めている。山野に囲まれた素晴らしい環境で、隣には温泉とお蕎麦屋さんも。人柄をほうふつとさせる美術館だ。