大学を出た“学士落語家”が増え、中に…


 大学を出た“学士落語家”が増え、中に京都大学やエール大学卒もいるという。3年前、21人抜きの大抜擢で真打ち昇進した若手の春風亭一之輔の噺を聞きに新宿末広亭へ行ってきた。

 演目は古典落語の「らくだ」。酔っ払いの芝居あり急展開ありで、演者の技量が問われ「真打の大ネタ」と言われるが、果敢に挑戦していた。一見、粗削りだが、演じることの楽しさが表れ、彼が描き出す世界に知らずと引き込まれた。

 客層は30~40代しかも女性が多く、華やいだ感じさえあった。帰り道、若い男性が連れに「21世紀の志ん生だ…」などと知ったかぶりをしていてほほえましかったが、人気のほどが知れた。

 一之輔の芸を見て、よく似ているなあと思ったのは先般、『流』で直木賞を受賞した東山彰良の文体。以前、小説家の垣根涼介が東山を「物語を紡ぐことによって、書き手の内部に熱が生まれ、結果的に自分の世界観を曝け出してしまう作家」と評した。

 一之輔37歳、東山47歳で若年とは言えないが、どちらも修業期間を経て実力を涵養し、今時の文学、芸能のトップランナーの1人となった。人気もあり、彼らを目指す者たちの、裾野の広がりも感じられる。

 今、書物などから教養、人格を身に付けようとする教養主義の衰退が嘆かれている。その一方で、一之輔や東山がするようなよく練られた自己表現やその主張の仕方を見ると若者たちの新しい動向もうかがえる。