「草ひばり月にかざして買ひにけり」(中村秀好)…


 「草ひばり月にかざして買ひにけり」(中村秀好)。そろそろ秋の虫たちの鳴き声が聞こえる季節である。が、まだ時々かすかに耳にするだけで、大合唱まではいかない。

 涼しさとともにやってくる虫の音楽会は、秋を実感させる風物詩と言っていい。秋の虫は、それぞれ鳴き声に特徴がある。バイオリンや打楽器などを奏でているようで、まさに音楽会である。

 稲畑汀子編『ホトトギス新歳時記』によれば、松虫「チンチロリン」、スズムシ「リーンリーン」、コオロギ「コロコロリンリン」「リーリーリー」他、草ひばり「フィリリ、フィリリ」、キリギリス「ギー、チョン」、クツワムシ「ガチャガチャ」、鉦叩(かねたたき)「チンチン」、邯鄲(かんたん)「ル、ル、ル、ル」などとある。バラエティーに富んでいる。

 昔から日本人は秋の虫の声に引かれ、虫かごに入れて鑑賞してきた。豊かな自然に恵まれる中で、生きとし生けるものの生命を感じてきたのだろう。とはいえ、そのような感覚は日本人だけのものというのは言い過ぎだ。

 ギリシャ出身で日本に帰化した作家ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)がいるからである。来日して日本文化を愛し、虫の鳴き声にまつわる「草ひばり」という作品も残している。

 一時期、島根県の松江に在住し、ペンネームの「八雲」は出雲にかかる枕詞(まくらことば)の「八雲立つ」から来ている。八雲は明治37(1904)年のきょう亡くなった。忌日は「八雲忌」と呼ばれている。