競走馬の余生支える、著名調教師が試み
殺処分避けセラピーに、滋賀のJRA栗東トレーニングセンターで
引退した競走馬の余生を支えるプロジェクトが進められている。行き場がなく、処分される馬も少なくない現状を変えたいと考え続けていた日本中央競馬会(JRA)栗東トレーニングセンター(滋賀県栗東市)所属の角居勝彦調教師(51)の取り組みだ。乗馬や馬の手入れを通じて障害者らの精神・運動機能を向上させる「ホースセラピー」などで活用する方策を探っている。
JRAによると、毎年5000頭前後の競走馬が中央競馬を引退。種馬や繁殖牝馬になるのは一部で、大半は地方競馬へ移籍したり、乗馬クラブに売却されたりする。しかし、その受け皿も十分ではなく、多くは殺処分されるのが実情だ。
角居さんは勝てずに引退する馬への責任を感じていたが、競馬は厳しい競争の世界。「勝てなかった馬の面倒より、勝たせることを考えろ」と自らに言い聞かせ、思いを封印してきた。
牝馬として64年ぶりに日本ダービーを制した「ウオッカ」などの名馬を育て、2011年から3年連続で最多勝利調教師に輝いた。こうした実績を積み上げた後の13年12月、一般財団法人「ホースコミュニティ」を設立した。
ホースセラピーを行う各地の団体や乗馬クラブを訪れ、研究を重ねた。今年4月からは、北海道浦河町の業務委託を受け、ホースセラピーを開始。障害児や高齢者らに乗馬の機会を提供している。
外部講師を招き、闘争心をかき立てる調教を受けてきた競走馬を落ち着かせ、セラピー馬や乗用馬にする技術について講習会も開催している。
今後は、月数千円の分担金を募り乗馬クラブに支払う預託金に充て、負担した人に乗馬してもらうシステムを考えている。競馬ファンに、乗馬にも目を向けてもらい、馬の活躍の場を広げる狙いだ。
角居さんは「馬は人に生きがいを与えてくれる動物。馬を中心軸に置いたコミュニティーを作るのが最終目標だ」と話す。