石垣市議会、安保法案成立へ「意見書」を賛成多数で可決
尖閣諸島抱える石垣市議会で、沖縄県内では初
安倍政権が推進する集団的自衛権の限定行使容認を柱とする安全保障関連法案が16日、衆院を通過した。それに先立ち、石垣市議会(知念辰憲議長)は14日の臨時会で、「安全保障関連法案の今国会成立を求める意見書」を賛成多数で可決した。沖縄県内で同法案の成立を求める意見書の可決は初めて。尖閣諸島を抱える石垣市は、領海侵犯を繰り返す中国との安全保障の最前線に位置しており、基地反対を主張する翁長(おなが)県政とは一線を画している。(那覇支局・豊田 剛)
離島では危機感募らせる、沖縄本島との温度差開く
石垣市議会は、安保法案の成立を求める意見書を採決した結果、自公など保守系議員の賛成13、反対8となった。反対討論で野党議員は「世論調査でも審議不十分とあり、憲法学者が憲法違反と指摘する法案だ」と主張したが、数で勝る与党の意見が採用された。
また、臨時会では、自民党議員と作家の百田尚樹氏による報道圧力発言に対する抗議決議案も審議されたが、賛成10、反対11の賛成少数で否決された。与党の公明党は賛成に回ったが過半数に至らなかった。
安保法案の成立を求める議案を提案した友寄栄三議員は本紙の取材に対し、「石垣市では危機が迫っているという実感がある。島民、その中でも漁民にとってみれば生活にかかわる問題」と述べた。
翁長雄志(たけし)知事が辺野古移設反対を大義に「オール沖縄」を主唱することについて、友寄議員は「石垣市はまったく当てはまらない。石垣市民は琉球新報と沖縄タイムスを読んでいない」とマスコミによる影響を受けていないことにも言及した。
6日に那覇市で開催された衆院平和安全法制特別委員会の安保関連法案に関する地方参考人会では、中山義隆市長が参考人として招かれた。
中山市長は「尖閣諸島を抱える石垣市としては、国の安全保障をしっかりと担保できる法の整備を望んでいる」と指摘した上で、「抑止力が強化され、大変心強い。国民の関心は高まっていると感じる」と述べた。
辺野古移設反対で翁長知事と歩調を合わせる稲嶺進名護市長が「憲法9条に違反し、平和主義を根底から覆すものだ」と撤回を要求したのとは対照的だ。
石垣市と同じ離島の宮古島市でも安全保障に対する意識が高い。2018年に陸上自衛隊が配備される見通しだ。これに関して、宮古島市議会(真栄城徳彦議長)は今月8日、自衛隊配備促進協議会(野津武彦会長)が提出した「自衛隊早期配備に関する要望書」を賛成15、反対4、退席6の賛成多数で採択した。
下地敏彦市長は「市民の総意が示された」と決議を評価。市長はこれまでも「自衛隊は国防上、必要」と述べるなど、南西防衛の強化を重視している。今後、配備の受け入れを正式に表明する見通しだ。
離島地域では今後、自衛隊配備に向けて用地取得や住民説明など受け入れ態勢を加速させていく必要が出てくる。
ところが、翁長知事は就任以来、米国、ハワイ、中国など海外訪問を重ね、さらに、政府への要請行動に力を注いでいる。一方で、離島地域にはほとんど足を運んでいないのが実情だ。
6月の石垣市議会で中山市長は翁長知事の姿勢を辛辣(しんらつ)に批判した。
「中国に対しては、(中国船の領海侵犯などの問題について)地方自治体の長が言うべきでないと言っておきながら、アメリカに行っては、米軍基地の問題をどんどん訴えてくる。(中略)尖閣諸島は沖縄県の行政区域。自分の行政区域に中国の船があれだけ入ってきている状況で、その国に行った時に、トップに会えたのに何も発言しないと言うのは、石垣の市長から頼まれたとか頼まれなかったから言わなかったとのレベルの話ではない」
翁長知事が国防・安全保障体制の強化を求める離島地域にも足を運び、地元住民の声に耳を傾けない限り、沖縄本島との温度差はますます開いていくであろう。
安全保障関連法案の今国会成立を求める意見書(一部省略)
近年、アジア太平洋地域をめぐる諸情勢をはじめ我が国を取り巻く安全保障環境は、いっそう厳しさを増しており、私たちの住む石垣市の行政区域の尖閣諸島においても中国公船の領海侵犯が日常茶飯事の状態にあり、漁業者のみならず一般市民も大きな不安を感じている。こうした状況から国民の生命と安全、平和な暮らしを守るのは、国、政府の最も重要な責務となっている。
我が国の安全を守るためには、日米間の安全保障、防衛協力体制の信頼性、実効性を強化することが求められており、そのためには、平時からあらゆる事態に対処できる切れ目のない法制を整備する必要がある。
また、我が国の平和と安全のためには、これまで我が国が果たしてきた役割と実績を踏まえ、国際社会の一員として責任ある国際協力活動を行うための法制を整備する必要がある。
よって、国におかれては、我が国の安全と国民の生命、そして国際社会の安全を確保するための平和安全法制について徹底した議論を進め、平和安全法制の今国会での成立を図るよう要望する。
平成27年7月14日
石垣市議会
宛て先:衆議院議長、参議院議長、内閣総理大臣、法務大臣、外務大臣、防衛大臣、内閣官房長官