「花石榴燃ゆるラスコリニコフの瞳」(京極杞陽)…


 「花石榴燃ゆるラスコリニコフの瞳」(京極杞陽)。石榴の花については、あまり記憶にないが、実はよく覚えている。トックリのような形が忘れ難い。

 歳時記では「庭などに植えられる落葉樹で、高さは三メートルくらいになる。緑の艶やかな葉をこまかく茂らせ、六月ごろ朱の六弁花をつける」(稲畑汀子編『ホトトギス新歳時記』)とある。気流子の子供時代、確かに近所の庭に植えられていた。

 友人たちとザクロの実を割って分け合って食べたことが思い出される。実の中では赤く小さな果肉がひしめき合っていた。噛むとすぐに固い種に当たり、酸っぱいだけで、食べるというよりも吸うといった印象だった。しかも、食べた後はしばらく歯が赤く染まった。

 ザクロは実っても、そのまま地に落ちて腐ってしまうことも少なくなかった。原産地は、トルコやイラン、南ヨーロッパ、北アフリカなどの説があってまだ特定はされていないようだ。ただ、ザクロの真っ赤な実は、いかにも陽光があふれた地方の産を思わせる。

 ところで、冒頭の句の「花石榴」と「ラスコリニコフ」の配置が何とも奇妙な印象を与える。ラスコリニコフとは、ロシアの文豪ドストエフスキーの作品『罪と罰』の主人公の名前。なぜかザクロは罪と罰というイメージに合っている気がする。この時期は、ザクロのほか、クリや椎、クチナシ、南天、柿、ミカンなどの花が咲く季節でもある。