知日派の冷静な視点 日韓の戦後処理を説明

反日急先鋒に従北勢力

 拗(こじ)れにこじれた日韓関係にどう向き合うか、韓国側で現実的で冷静な意見が「月刊朝鮮」(5月号)に掲載された。「韓日関係正常化のための提言―われわれも自省しなければ―」である。著者はマレーシア公使、広島総領事などを務め、現在忠清北道国際関係諮問大使の任にある許徳行(ホドッケン)氏だ。

 今の日韓にはもっぱら双方に関係悪化の原因を求め、自省する視点がほとんどない。お互いの論理を構築した次元から一歩も出ずに、相手の歴史的文化的背景を忖度(そんたく)することから遠ざかっている。その中で許元公使の記事は韓国民にも分かりやすく、そして日本人にも納得のいく話が多い。

 許元公使は「慰安婦」について、「日本政府を相手にこれ以上交渉する益はない」として、「日本政府の代わりに韓国政府が謝罪し、被害補償を実施する案を積極的に検討する時が来た」と提言している。

 慰安婦問題は韓国政府にも責任の一端がある。このことを外交官であった許氏はよく知っているのだろう。1965年の日韓基本条約で日本の韓国に対する莫大な経済協力、韓国の日本に対する一切の請求権の完全かつ最終的な解決がなされた。

 本来ならば、当時の朴正煕(パクチョンヒ)政権はこの中から強制徴用者等への補償を行うべきだったが、経済建設に集中するあまり、ないがしろにしてしまった。「慰安婦」に至っては交渉の机に載りもしなかった。その後20年以上経(た)ってから問題化されたわけだが、「完全かつ最終的解決」がなされた後だったので、対処の責任は韓国政府にあることになる。

 現に、韓国の市民団体は、当時日本から韓国に渡された金の中から強制徴用の補償は支払われるべきだとして韓国政府を提訴している。その意味で、「被害補償を実施すべき時が来た」というのは、間違っていない。もちろん、許氏は日本への道義的責任は追及すべきだという立場だが。

 戦後処理について、「日本はドイツに学べ」と韓国は繰り返す。これについて許氏は、「日本とドイツの事情は全く異なる」ため、日本からの反発を呼ぶだけで、逆効果だと説明する。

 ドイツは過去2回の戦争と欧州戦線の被害の巨大さから言って、戦後処理、謝罪の国際的圧力が大きかった。それに比して日本は終戦直後に始まった東西冷戦と中国共産化のために、「過去史清算の圧力が著しく低水準だった」と指摘する。

 終戦5年後に始まった韓国動乱もあり、「日本国民の情緒をよく理解したマッカーサー司令官は日本を戦犯国として処罰し侮辱するよりは、赦(ゆる)しと懐柔で日本人の心を捉え、米国に従うように占領方針を決めた」のだった。

 日本人が主体的に戦後処理を選択したわけではないから、「ドイツと違う」と批判されてもピンとこないのである。むしろ、批判すればするほど、「日本国内の親韓の人々、過去の歴史反省を促してきた良識派、市民団体の立場を苦しくする」という逆効果を生んできた。それを知日派から説明されなければ分からないほど、韓国の一般は日本に対しても、歴史に対しても無知なのだろうか。

 許氏の指摘で重要なのは、日本批判の急先鋒(きゅうせんぽう)に立っているのが民族主義者であることは言うまでもないが、その背後に「民族主義を装って反米・反日の雰囲気を造成」している「従北主義者」がいるという指摘だ。

 「日本への批判がすべて従北活動というわけではない」と断りつつも、「過去史清算のかなりの部分が従北主義者に悪用されてきた」としている。一般大衆を焚(た)き付けて扇動し、結局韓国に不利益を招来させている活動をみれば、従北勢力が背後にいるとみるのは妥当である。

 最後に許氏は、「日韓国民はポピュリズムに便乗した政治家に利用されず、メディアの偏向に惑わされず、日本に2度と攻撃されたくなければ、日本のせいばかりにせず、自身を守れなかった歴史的過ちについて痛烈に自省しなければならない」と結んでいる。

 相手ばかりでなく、自身を省みることが双方にとって必要なことに気付かせる記事だ。

 編集委員 岩崎 哲