ユネスコ、産業遺産の保全を重視の流れ
富岡製糸場・石見銀山に続き3例目、「風化」「稼働中」公開に課題
世界文化遺産登録の可能性が高まった明治日本の産業革命遺産。重工業に関する施設が選ばれるのは国内初で、産業遺産としては群馬県の富岡製糸場、島根県の石見銀山に続き3例目となる。産業遺産の保全を重視する国連教育科学文化機関(ユネスコ)の方針も影響したとみられるが、稼働中や風化が進んだ施設もあり、今後の課題も多い。
ユネスコは1990年代に、遺跡や歴史的建築などに偏った世界遺産の不均衡を是正するとして、産業遺産や20世紀の近代建築の保護を重視する姿勢を決議などで打ち出した。工場や港湾、鉱山などを文化財として保護する歴史は浅く、他国の産業遺産も大半が90年代以降に登録されている。
国内でも同時期から保護が進んだが、稼働中の施設は文化財指定されると改築などが難しくなるため遅れていた。登録には国を挙げた保全体制の整備が必要で、政府は景観法や港湾法などを活用して稼働施設の保護を進め、今回は内閣官房主導で申請にこぎ着けた。
登録されれば観光客増などが期待されるが、課題もある。長崎市の端島炭坑(軍艦島)は建物の風化が激しく、安全が確認された島の一部にしか立ち入れない。指定の渡し船でのみ上陸を認めているが、予約はほぼいっぱいで安全面からもこれ以上の受け入れは困難という。完全補修には150億円以上必要との試算もあり、市の担当者は「予算や技術的に厳しい。明治期の施設以外の独特の景観まで守るのか議論が必要だ」と話す。
対象資産の一部が稼働中の八幡製鉄所や長崎造船所。現役の生産設備が登録対象になるのは世界的にも珍しいが、安全管理の問題もあり、現在は保有企業が大半を非公開にしている。北九州市は製鉄所の敷地の一部を借りて見学スペースを設置。長崎市は対岸から造船所を見渡せる場所を案内しているが、全く見られない資産は残る。遺産の価値や魅力を説明するため、映像や資料を駆使するなど試行錯誤が続いている。