朴政権、前政権叩き裏目? 李完九・韓国首相に収賄疑惑浮上
標的の経済人が自殺
裏金メモに名前、大統領側近も
李明博前政権時の不正あぶり出しに乗h4り出した朴槿恵政権が、逆に窮地に追いやられている。標的にされた経済人が自殺の際に書き残した贈賄メ モに政権中枢の大物の名が含まれていたためだ。韓国では新政権が前政権に政治的報復を加えることがしばしばあったが、今回はそれが裏目に出る可能性もありそうだ。(ソウル・上田勇実)
標的の財界大物自殺が発端
李政権は在任中、「資源外交」と称して資源獲得に向けた外遊を精力的に行った。経済人が随行してビジネスチャンスをうかがうことが多かったが、朴政権はその際に投入された巨額公的資金の未回収問題や不正疑惑にメスを入れようとした。その第1ターゲットにされたとみられているのが 中堅ゼネコン京南企業の成完鍾前会長だ。
成前会長は海外での資源開発事業に手を付けた際、政府系企業から融資された資金の一部をキックバックする方法で有力政治家にばらまき、自らも巨額を着服していた疑いが浮上した。
こうしたことが可能だったのは「成功払い融資」と呼ばれる制度を李政権が積極的に活用したためだ。成功払い融資とは海外資源の開発事業に適用されるもので、仮に事業が失敗しても、これに関わった企業は融資された資金の全額あるいは一部を返済しなくていい。
産業通商資源省などがまとめた資料によると、同制度が導入された1984年から2013年までの30年間に海外での石油開発をめぐる成功払い融資の規模は総額26億7000万㌦だったが、このうち李政権の5年間だけで全体の約40%に相当する10億5000万㌦が融資された。
そして油田探査などが失敗して生じた融資返済の免責額でも、李政権の5年間に発生した額は全体発生額の40%に達したという。
朴政権は、この李政権が進めた資源外交に伴う海外資源開発を舞台に行われた不正腐敗に目を付け、低迷する支持率の回復などを狙ったのではないかという見方が出ている。李完九首相は今年3月、就任後初の国民向け談話で不正腐敗の根絶に意欲を示していた。
ところが、検察捜査の対象となった成前会長が記者会見で「私はMBマン(李明博大統領のイニシャルMBを取って李前大統領に近い人間という意味)ではない、悔しい」などと訴え、その翌日に自殺したことで事態は急転した。
遺書の他に見つかったメモからは、成前会長から渡ったと思われる賄賂の受け取り人の名前がズラリと並んでいたからだ。中でも不正腐敗根絶の宣言をした張本人である李首相が含まれていたため、政界を中心に大きな波紋が広がっている。
李首相と成前会長の関係をめぐっては、成前会長が生前に受けたマスコミのインタビューや元側近が話したとされる現金授受の生々しい内容なども出てきて、李首相が成前会長から賄賂を受け取り、自らの国会議員選挙の費用に使ったのではないかとする疑惑が持ち上がっている。野党は「被疑者身分の首相なんて過去にいなかった」(文在寅・新政治民主連合代表)などとして、李首相に辞任を求める構えだ。
また、この裏金メモには朴政権歴代の青瓦台(大統領府)秘書室長たちも登場する。李丙●(=王に其)現室長、金淇春前室長、許泰烈元室長の3人だ。ちなみに金前室長の場合、06年にドイツで10万㌦を、許元室長は国内で7億ウォンをそれぞれ受け取ったとおぼしき内容が記されている。
成前会長が苦労して一代で築いた京南企業は、近年の建設不況や朴政権発足後の資源外交の見直しなどの余波を受けて経営難に陥り、破綻寸前 で救済措置が取られていた。一時は国会議員にもなり、政界にかなり顔が利いたといわれる成前会長としては、引き続き朴政権との政経癒着が不可欠だったはずだが、結果的に現政権から前政権たたきのスケープゴートに利用された形だ。
裏金メモなどで波紋が広がり、さすがの朴大統領も南米4カ国歴訪に出発する直前、与党党首と緊急に対策協議を行った。前政権絡みの不正腐敗根絶の試みが、ブーメランのように自分たちの政権基盤を揺るがしかねない恐れが出てきた。直近の世論調査で朴大統領の支持率は、前週より5ポイント下落し34%に落ち込んだ。
野党や反政府系マスコミは一連の出来事で政権批判のトーンを高めているが、過去の例からみても果たして検察が裏金メモに登場する政権中枢への捜査をどこまで踏み込んでやれるのか、早くも疑問を投げ掛ける声が上がっている。