落語には、滑稽噺(ばなし)、人情噺などの…
落語には、滑稽噺(ばなし)、人情噺などの分類があるが、親子の情愛を描いた「親子噺」とでも言うべき噺も少なくない。「子別れ(子はかすがい)」「藪入り」「初天神」など、その代表だろう。
親子の情愛は万国共通だけれど、落語の噺にあること自体、日本人が特に子供好きだということを示している。少なくともかつてはそうだった。
日本近代史家の渡辺京二氏の『逝きし世の面影』(平凡社ライブラリー)は、幕末に日本にやって来た外国人の観察を通して、「失われた日本」を浮かび上がらせた名著だ。その中に「子どもの楽園」の章があり、英国公使オールコックはじめ多くの欧米人が、日本では子供たちが実に大事にされ幸せそうに暮らしており、文字通り子供の楽園であると報告していることを紹介している。
渡辺氏は「なにか今日の私たちの胸を熱くさせる事実だ」と述べ、「この子たちをそのような子に育てた親たちがどこへ消えたのか」と問うている。親子の風景の変化を念頭に置いての問いと思われる。
厚生労働省の調査によると昨年度、全国の児童相談所が把握した児童虐待の件数は、前年度より7064件増え7万3765件となった。児童虐待への社会的関心が高まり監視態勢が強化されたこともあるが、子供が死亡する事件も後を絶たず、事態は深刻だ。
そんなニュースを耳にする度に、「子別れ」「藪入り」など、人生の教科書のように思われる今日この頃である。