胚性幹細胞(ES細胞)研究の第一人者…


 胚性幹細胞(ES細胞)研究の第一人者として世界的に有名な理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの笹井芳樹副センター長が首つり自殺した。

 笹井氏はSTAP細胞論文の責任著者の一人で、不正が見つかったSTAP論文筆頭著者の小保方晴子研究ユニットリーダーを指導していた。「指導者としての責任は重大」と指摘され、そのストレスは相当のものだった。

 しかし腑に落ちないこともある。4月の記者会見では「STAP細胞のような存在がなければ(生物界のダイナミクスは)説明できない」「実験過程でSTAP現象は見られた」「自分の中でも不思議な現象。科学者として、はっきりさせたいという強い思いを持っている」と話していた。

 記者たちの鋭い質問を受けながらも、科学の第一線に立ち、未知の分野を開拓する者の本意を語っていた。どういう心境の変化があったのか。

 ただし科学の歴史上、同様の悲劇が散見される。原子論の立場からエントロピーを実証した19世紀後半のオーストリアの科学者ボルツマンは、当時の科学者らから否定され、うつ病が高じ失意のうちに自殺した。しかし彼の理論・統計力学の正しさは後に証明された。

 理研の野依良治理事長は「驚愕(きょうがく)している。世界の科学界にとってかけがえのない科学者を失ったことは痛惜の念に堪えない」とするコメントを出した。笹井氏のご冥福を祈りたい。