日銀短観への論評は保守系4紙だけ、日経は個人消費に懸念示さず
◆日経は投資で楽観的
日銀が1日に発表した6月の企業短期経済観測調査(短観)は、大方の予想通り、4月の消費税増税に伴う駆け込み需要の反動減が響き、6四半期ぶりに企業の景況感が悪化したことを示した。
もっとも、大企業製造業では先行き改善を見込み、今年度の設備投資計画が大企業全産業で大幅に伸びるなど明るい数字もみられた。麻生財務相が会見で語ったように、「消費税増税の影響を最小限に食い止め、経済は緩やかな回復軌道が続いている」というところか。
この日銀短観について論評を掲載したのは、読売、産経、日経、本紙の4紙(いずれも3日付)。偶然にも保守系の新聞ばかりで、朝日や毎日、東京はこれまでのところ掲載は無し。
掲載4紙の中身の違いを見るため、見出しを列挙すると、次の通りである。読売「日銀短観悪化/増税ショックを軽視するな」、産経「日銀短観/設備投資への流れ確実に」、日経「企業は投資を増やせるか」、本紙「景況感悪化/反動減『限定的』と楽観は禁物」――。
この通り、慎重な読売と本紙、設備投資を中心にまとめた産経と日経に分かれた。中でも、日経はそれこそ投資だけで、他紙が示した賃上げや、賃上げが深く影響する消費には一切触れない。読売や本紙が示した懸念も全く見られず楽観的である。
◆消費を心配する読売
読売や本紙が「油断は禁物」と示す懸念はまず、景気回復力の弱さである。景況感を示す業況判断指数が6四半期ぶりに悪化したことは前述したが、業種では特に自動車と小売りなどが、増税後の反動減で大きな影響を受け低下が目立った。
先行きの指数も大企業製造業は3〓の小幅改善にとどまり、同非製造業は横ばいである。麻生財務相の「緩やかな回復」とは、「回復の勢いはさほど強くない」(読売)ということでもある。
読売などが指摘するように、家計消費の大幅な減少など心配な経済指標も出ている。「消費回復のカギは収入の増加」(同紙)であり、これは企業側から見れば、賃上げの動向である。
その賃上げについては、安倍政権の要請もあり、大企業の春闘賃上げ率は2%台に乗せたが、4月の消費税増税(税率の3%引き上げ)もあり消費者物価上昇率は3%台に上昇。「賃上げ(本紙では所得の伸び)が物価上昇に追いついていないのが実情」(読売)なのである。
読売は、好業績の企業が賃金やボーナスで従業員に利益を還元し、それが消費を押し上げる「好循環経済」に向けた動きを、政策で後押しすることが求められる、と指摘するが、全く同感である。
これに対して、日経は前述の通り、賃上げや消費に関する分析は一切ない。あるのは、予算の着実な執行と成長戦略の実行を急げ、である。
確かに、予算の執行は「景気の下支え」になり、成長戦略の早期実行は、それによって「前向きな設備投資を増やせば、景気回復の安定度は増す」から、同紙の指摘の通りである。
ただ、同紙は「研究開発投資も含めて、企業は将来の成長の種をしっかりとまいてほしい」と設備投資の勧めは説いても、賃上げ率以上に物価の上昇が進む状況でも、さらなる賃上げには言及しない。
同紙には「いまの景気回復局面では、個人消費と比べて設備投資が出遅れていた」とあるから、賃上げが物価上昇に追いつかない現状でも、消費の動向は万全、心配なしと考えているのであろうか。
それとも、企業の国際競争力という点で、これ以上の賃上げ、つまり、人件費のアップは望ましくないと思っているのか。経済紙としての見解を聞きたいところである。
◆賃上げを求めた産経
「設備投資への旺盛な意欲がみられたことは心強い」と評価した産経。同紙は、この流れを定着させるために、日経同様、企業に対して成長分野の育成や生産性向上への投資を積極化するよう注文。
加えて、賃上げへの取り組みの強化を求め、日経との違いをみせた。同紙は「企業が目指すべきは、生産性を高めて収益力を着実に上向かせ、これを確実に賃上げに反映させる経営努力だ」と強調したが、日経はこれをどう見るのであろうか。
(床井明男)