ユダヤ人女性の身元、73年ぶりに判明
杉原ビザで欧州から脱出、「私を思い出して」と写真託す
リトアニア・カウナス駐在の杉原千畝領事代理から「命のビザ」を受け、欧州を脱出したユダヤ人多数が1940~41年、日本の定期船でソ連(当時)ウラジオストクから福井県敦賀へ運ばれたが、その際、感謝を込めて担当日本人に顔写真を残した女性の身元が、73年ぶりに判明した。女性は97年に亡くなったが、米在住の子供たちは「写真を見てすぐ母と分かった。言い知れぬ感動を覚えた」と話している。
女性はポーランド生まれのソニア・リードさん。ナチスの迫害を逃れて日本に渡った当時は16~17歳で、写真の裏に「私を思い出してください。すてきな日本人へ」と書き残していた。
ユダヤ難民輸送に当たったジャパン・ツーリスト・ビューローの故・大迫辰雄さんは、船中で男女7人から託された顔写真を戦後も大切に保存していた。大迫さんの国際観光振興会(現日本政府観光局)時代の後輩に当たる作家、北出明さんは在米の元ユダヤ難民らにインタビューを重ね、7人の消息を追ってきたが、最近カナダ在住ジャーナリスト高橋文さんの協力で、写真の1人がソニアさんと確認された。
北出さんによると、ソニアさんはニューヨーク近郊で夫の板金工場経営を手伝っていた。日本にも2回旅行。生前、3人の子供には欧州からの逃避行について何も語らなかったが、「日本人にはとても親切にしてもらった」と話していたという。
北出さんはユダヤ人脱出を陰で支えた日本人たちを描く「命のビザ、遥かなる旅路」(交通新聞社新書)を2012年に出版。米国人にも広く知ってもらいたいと、その英訳本を近く刊行する。(ニューヨーク時事)