フランスで右派躍進、欧州議会選に影響
仏統一地方選で左派苦戦
フランスでは30日、統一地方選挙の決選投票が行われた。23日の第1回投票では右派・国民戦線(FN)が過去最高の得票率を記録した一方、与党・社会党などの左派候補が苦戦した。FN候補の当選阻止のため左派政党と中道右派政党が共闘するなど、なりふり構わぬ選挙戦で決選投票にもつれ込んだ。FNの躍進の背後に何があるのか仏国民の複雑な事情が浮かび上がってくる。(パリ・安倍雅信)
雇用と治安で有権者失望
フランスで23日に行われた統一地方選挙の第1回投票(約3万6000自治体の首長を選ぶ統一地方選)では、FNをはじめ最大野党の中道右派・国民運動連合(UMP)が得票率を上げた。一方、与党・社会党をはじめとする左派勢力は大幅に得票率を下げた。予想されていたとはいえ、左派陣営には大きな衝撃が走った。
同国の統一地方選は、有効投票の過半数を獲得できなかった場合、決選投票で首長を決めることになっている。現在、現職首長のいないFNだが、今回は第1回投票で北部の炭鉱の町、エナンボーモンで当選を決めたほか、南部のアビニョンなど複数の自治体で首位を獲得した。同じ南部、オランジュでは元FNの候補者が当選している。
FNの得票率は、前回の2008年には1%に満たなかったのが、今回第1回投票では5%近くに伸びた。同党のマリーヌ・ルペン党首でさえ「予想外の結果」と評価している。また、複数の専門家が「FNは極右の小政党から国政に重要な影響を与える政党への脱皮を果たした」と指摘している。
一方、第1回投票では棄権率の高さも指摘され、過去最高の38%だった。政治アナリストは棄権率が高いと与党には不利としていたが、社会党が優勢とみられたパリ(社会党選出ドラノエ現市長)でも、最大野党・中道右派のUMPに追い上げられた。また、三大都市のマルセイユやリヨンでも苦戦した。
UMPの選対関係者は「オランド現政権に対する失望感が政治不信を生み、投票率低下につながった」と指摘している。一方、エロー仏首相はFNの台頭について「民主主義の力を結集して食い止めなければならない」と表明、決選投票ではUMPなど右派との共闘でFN躍進阻止を模索した。
フランスでは、失業率の高止まりが続く中、今年1月の失業率が低下を見せたが、仏労働省が26日発表した2月の失業者数(登録求職者数)は前月比3万1500人(0・9%)増の334万7700人となり、過去最多を更新した。前年同月比では4・7%増、単月としては昨年9月以来の大幅増となった。
失業対策は2012年に発足した左派のオランド政権が公約に掲げ、常に国民は注視してきた。しかし、地方都市では大手製造業の海外移転や工場閉鎖が相次ぎ、景気は回復に向かっているとする政府との見解とは異なり、失業者が増える一方だ。
左派寄りの仏国営放送のフランス2やフランス3、高級日刊紙ルモンドは、FNの躍進への警戒感を強め、「民主主義の危機」として、FNへのネガティブキャンペーンを行った。だが、地方選挙では政治信条の影響は薄いとされる。
北部リール市近郊にある治安の悪いルーベで市議会議員を務めた経験を持つFN選出のピエール・セラーク元欧州議員は「地方選挙に有権者が求めるのは、市民生活に直接貢献してくれる候補者であって、政治信条はそれほど大きな意味を持たない」「私の経験では治安対策に本気で取り組んでくれる候補者に支持が集まっただけだ」と語る。
実はFNの躍進は最近のことではない。昨年10月に行われた南部バール県議会補欠選挙では、FNの候補が得票率54%で当選した。地方の補欠選挙だったが、仏日刊紙ル・フィガロは「国家的影響を持つ」と報じた。決選投票はUMPとFNの一騎打ちで、第1回投票で敗退した社会党はUMP候補支持に回ったが勝てなかった。
12年の大統領選挙の1年前の世論調査でも、最も大統領になってほしい人物として、マリーヌ・ルペン党首の名前がトップに挙げられた。欧州統合後のリーマンショックやギリシャの債務危機で噴出した欧州統合懐疑論が引き金になったともいわれている。
若者の高い失業率が政策課題になる中、社会的弱者である若者、特に移民系の若者を中心に治安を乱す反社会的行動が表面化し、移民への反感も高まっている。さらにフランス人のアイデンティティー強化や国家主権の拡大などを求める声もあり、社会秩序の回復のために明確な国家観を持つFNへの支持が拡大している。
さらに昨年、フランスは同性愛者の結婚や養子縁組の合法化を左派政権下で可決成立させ、反発する首長が同性愛カップルの婚姻届を受理しない現象が起きた。また、今年は政府が推進するジェンダーフリー教育が具体的に教育現場に持ち込まれ、危機感を募らせる有権者も少なくない。
富裕層や大企業寄りのUMPに比べ、弱者への支援や治安の悪い地域での活動を継続してきたFNに対しては貧困地区に住む有権者からの期待感も高まっている。オランド政権が富裕層に高率の税負担を強いたことで高額納税者が海外に多数移動した現象に対しても愛国心の問題をFNは指摘し、国民からの共感を得ている。
また、左派は治安対策に弱いというイメージも消えない。実際、02年の大統領選挙では治安対策が最大の争点となり、当時現職の社会党のジョスパン仏首相が第1回投票でFNに敗れている。当時は戦後、最悪の犯罪発生率を記録していた。
欧州では5月に欧州議会選挙が予定され、今回の統一地方選挙の結果は大きな影響を与えそうだ。昨年10月に行われた世論調査では、欧州議会選挙での投票先を問う質問で「FN」と回答した人は24%でトップとなり、UMPの22%、社会党の19%を上回った。世論調査機関によれば、全国規模の選挙に関する調査でFNは初めて首位に立ったという。
フランスは長い間、中道右派のUMP(前進は仏共和連合)と社会党の二大政党が交代で政権を担ってきた。FNの躍進は、左右二大政党への不満票を吸収した形といえる。FNは近年、ルペン党首の父親でFN創設者のジャンマリ・ルペン前党首に比べ、極端な主張が少なく、伝統保守の立場から保守層への支持を確実に伸ばしている。
欧州連合(EU)が、ギリシャに端を発した財政危機で試練を受ける中、ウクライナ危機での明確な姿勢を示せない葛藤もある。脱欧州、主権強化を主張する勢力への支持が拡大する現象は、今後もしばらく続きそうだ。