ウクライナ情勢が緊迫、EUは段階的に対露制裁措置

軍事衝突への警戒感も

 ウクライナ情勢が緊迫する中、欧州連合(EU)はロシアに対して制裁措置を段階的に取ることを決めた。EU内では冷戦後最も深刻な危機との受け止め方が強く、ロシアとの軍事衝突への警戒感が強まっている。一方、ロシアは天然ガス供給を止めるなどの対抗措置を検討しており、緊迫が続いている。
(パリ・安倍雅信)

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6日、欧州連合(EU)緊急首脳会議後に記者会見するドイツのメルケル首相=ブリュッセル(AFP=時事)

 フランスのファビウス外相は7日、ウクライナ情勢が緊迫する中、EUやアメリカによる対ロシア制裁の第1弾について、ロシアによるウクライナへの軍事介入に変化が見られない場合、企業およびプーチン大統領周辺も対象とする追加制裁を行うこともあり得ると述べた。

 EUは6日、ベルギー・ブリュセルで緊急首脳会議を開き、ロシアがウクライナに対する軍事介入を控えなければ、資産凍結や渡航禁止などの制裁に段階的に踏み切る方針で合意した。同会議では、EU加盟28カ国の首脳および、ウクライナ暫定政権のヤツェニュク首相も出席し、数日の間にロシアがウクライナとの直接対話に応じない場合の3段階の制裁措置を決めた。

 ドイツのメルケル首相は「この数日間、ロシアには非常に失望させられた。われわれには行動する用意があることを明確にしておくことにした」と述べた。制裁措置としてはEU内での資産凍結をはじめ、ロシアの求めで検討しているビザなしでの渡航交渉の停止などが含まれている。

 また、6日にはヤヌコビッチ前ウクライナ大統領やアザロフ前同国首相ら18人に対するEUの資産凍結措置が発効された。そのためデイセルブルム財務相の話としてウクライナのヤヌコビッチ前大統領らを対象としたEUの資産凍結措置に伴い、オランダ国内で既に数億ユーロ(数百億円)の資産が差し押さえられたことを明らかにした。

 ファビウス外相は、「深刻な危機であり、冷戦以降で最も深刻な事態の一つかもしれない」と述べた。フランスは7日にロシアのソチで開幕した冬季パラリンピックへ閣僚を派遣しないことを決めるなど、各国もロシアに対して厳しい姿勢を見せている。

 同外相はまた、ウクライナ情勢に対して、ロシアが(ウクライナの)クリミア半島を正式に自らの管轄下に置こうとするいかなる新たな動きも、欧州とロシアの関係に「重大な結果」をもたらす可能性があると述べた。実際、欧州とロシアの経済関係は深く、EUからの制裁が強まれば、ロシアがダメージを受けることは確実とみられている。

 しかし、クリミア自治共和国議会が6日、ロシアへの編入案を全会一致で可決し、編入の是非を問う住民投票を16日に実施すると発表。翌7日にロシアのワレンチナ・マトビエンコ上院議長らとクリミア代表団の会合で、マトビエンコ上院議長がクリミア議会の決議を「支持し、歓迎する」と述べ、ロシアへの編入が現実味を帯びてきた。

 EU側は、住民投票が行われたとしてもロシア軍の制圧下で行われる投票には、何の正当性もないとの立場を明確に打ち出している。もしクリミアのロシアへの編入の動きが加速化された場合、EUはさらなる制裁措置を取ると警告している。

 国際エネルギー機関(IEA)の2012年のデータによると、欧州は原油、液化天然ガス、石油製品の約30%をロシアに依存している。特に天然ガスはロシアからウクライナを通って欧州数カ国にパイプラインがつながれている。

 ロシア外務省は7日、EUの対露制裁決定に対し、制裁が発動された場合は報復措置を取るとの声明を出した。ロシア政府はEUが6日の首脳会議で3段階の制裁措置を決めたことに対し「対抗措置なしでは済まないのみならず、EU加盟国権益にも問題が生じることを理解すべきだ」と強く警告した。

 一方、ロシア政府系天然ガス輸出企業「ガスプロム」のミレル社長は7日、ウクライナのガス料金未払いを理由に、同国向けのガス輸出を停止する可能性に言及した。実行されればウクライナ経由でロシア産天然ガスを輸入しているEUへの対抗措置となる。逆にEU側からロシア産原油や天然ガスの禁輸措置を取る可能性は低いと専門家らはみている。

 ロシアは欧州に天然ガスを輸出することで、巨額貿易黒字につなげてきたが、欧州財政危機、米国のシェールガス革命での価格低下の影響で減少している。今回のウクライナ危機でEUはロシア産天然ガスへの依存度を下げるため、米国のシェールガスに関心を持ち、米国も輸出拡大に動こうとしている。

 一方、ロシアの金融システムは、欧州が財政危機に陥るまではEU主要銀行からの投資に依存していた。現在は依存度を下げているが一方、ロンドンの金融市場ではロシアの投資家に対して門戸を閉ざすような制裁措置に懸念が示されている。

 苦しい立場に立つキャメロン英首相は「見て見ぬふりをする方が後々大きな問題になる」との認識を示し、英国金融業界に悪影響が出ても制裁は検討すべきだとの考えを示したが、市場の成り行きを注視しながら方針を決める可能性が高いとみられている。

 一方、EUの対ロシア輸出全体の3割を占めるドイツのメルケル首相は、「制裁は段階的に実行に移される」としながらも、本音では「そうしたことが起きないことを望む」と漏らしている。ロシアとの関係悪化がもたらすドイツ経済への悪影響は大きいからだ。また、ロシアでビジネスを展開するEU企業も、EUとロシアの経済相互依存度の高さを強調し、EUの対ロシア制裁を思いとどまるよう求めている。

 過去にも増してEUとロシア経済の依存度が強まる中、米国と異なり、ウクライナなどと国境を接し、すでにリトアニアなどバルト3国は北大西洋条約機構(NATO)へ防衛強化を要請し、既に戦闘機の増強などが行われている。緊張が高まる中、戦争を望む声は、EUのどこからも聞こえてこない状況だ。