NHK会長に個人的見解求め公式発言とする罠に嵌めた朝日、毎日

◆「一杯くわせた」の図

 「嵌(は)める」というのは、「計略におとし入れる。だます。一杯くわせる」(広辞苑)ことだが、こういう場合、結果的に嵌めたことになりはしないか。NHK新会長の籾井勝人(もみいかつと)氏の就任記者会見での「慰安婦」発言のことだ。

 籾井氏は1月25日、就任後の初の会見で、記者から慰安婦問題について聞かれた。これに対して籾井氏は「コメント控えていいですか」としつつも、「個人としてであれば」と持論を展開した。

 その中で「戦時慰安婦」について「戦時中だからいいとか悪いとかいうつもりは毛頭無いが、この問題はどこの国にもあったこと」と率直に語り、欧州の例を出し、「会長の職はさておき」と断ったうえで韓国側の主張も批判した。

 ところが、記者との間で「どこの国にも」をめぐって論争の形となり、記者は「会長の職はさておきというが、公式の会見だ」と凄み、籾井氏は「だから『会長はさておき』と語っている。ならば全部取り消しますよ」と答えたが、記者は「取り消せません」と開き直った。

 それで籾井氏は「会長として答えられないが、それだとノーコメントばかりになるから『さておき』と言って答えている」と述べたが、後の祭りである。個人の発言として聞きつつ、発言後に「個人はあり得ない」とする。まさに「一杯くわせた」の図である。

 大手商社出身の籾井氏は率直な物言いで、会長就任前のNHK内部では「親しみが持てる」と好評だったと朝日にある(26日付)。ここに付け入る隙があると計略を立てられたのか。質問は靖国問題や安倍政権との距離など政治的なものが大半で、ノーコメントにならないようにとの籾井氏のサービス精神が逆手に取られた格好だ。

 それにしても質問したのはどの社の記者だったのか、新聞には書かれていない。ネット上には「朝日新聞の進藤翔」とか、「朝日はそんな記者はいないと否定している」とか、いささか炎上気味である。

◆取り消しても載せる

 それはさておき、朝日や毎日の報道姿勢は疑問だ。

 朝日26日付1面は個人的見解ではなく「会長発言」として報じ、中面では「中立・公平性、疑問の声」と袋叩きの体だ。「会長の職はさておき」や「全部取り消します」のやりとりは載せているが、毎日26日付はこの部分をそっくり削っており、まるで隠蔽(いんぺい)である。これでは会見の真相が理解できない。

 果たして籾井氏の見解は「暴言」なのだろうか。会見内容を聴くかぎり、両紙の主張とは確かに違っているが、事実と懸け離れているとは思われない。この点は読売が28日付政治面に「Q&A 従軍慰安婦問題」を載せ「強制連行 証拠なし」と丁寧に解説している。

 NHKの「中立・公平性」の最大の核心は、偏向報道についてだ。東京都知事選に出馬した16人の中に極左過激派に推されているNHK出身者が一人いるように、「とんでも職員」による偏向報道がしばしば起こっているからだ。

 とりわけ「慰安婦問題を含め、歴史番組などで日本をことさら悪者に描く放送内容に視聴者の批判を受けてきた」(産経30日付主張)。その代表例が1999年12月に都内で開かれた「日本軍性奴隷を裁く『女性国際戦犯法廷』」を取り上げた番組(2001年1月放送)だろう。

 「法廷」は北朝鮮から拉致に関わった2人の工作員を検事役として招き、昭和天皇に対して「強姦(ごうかん)と性奴隷制」の罪で有罪判決を下す異様な人民法廷だった。こんな番組を流せば、番組編集に政治的公平や真実報道などの条件を付す放送法(4条)に違反するのは明白だ。

 だから当時、官房副長官だった安倍首相が「公平・公正にやってください」と要請したが、朝日は05年1月に政治介入として報じ、安倍氏攻撃を繰り返した。が、政治介入がなかったことは同番組をめぐるNHK訴訟で確定している(08年、最高裁判決)。

◆偏向を正すのは難事

 産経抄は「NHKの偏向を正そうとすれば、反対勢力はあらゆる機会をとらえて足を引っ張ろうとする。籾井氏はその恐ろしさを思い知ったはずだ。気を引き締めて改革に乗り出してほしい」(28日付)と忠告している。

 まさにそのとおりだ。

(増 記代司)