デジタル教科書、拙速避けて紙の利点と併用を
《 記 者 の 視 点 》
何か新しい事に取り組むには、表があれば裏があり、良い点があれば悪い点がある。賛成する人もあれば反対する人もいる。国家であれ、地方自治体であれ、会社であれ、組織の長には、長きにわたって尊重されるものを選択することが願われる。
教育の面では、デジタル教科書が問題になっている。教育関係者ならば「子供の理解が深まり、学力が向上、人間性も成長する、というものならば導入したい」というのが正直な気持ちであろう。
現行の学校教育法では、「教科書は紙」と定められている。文部科学省は2021年度、22億円をかけて、選択した小中学校にデジタル教科書を無償、効果や課題を検証するという。
新学習指導要領を踏まえた「主体的・対話的で深い学び」の視点からもデジタル教科書が求めらている。平成30年に学習者用デジタル教科書の作成・使用を制度化する「学校教育法等の一部を改正する法律(平成30年法律第39号)」等関係法令が公布された。
急速に発展するネット社会への対応、情報通信技術(ITC)に対する知識を子供たちに持ってもらうため、また、通常の紙の教科書では対応できない支援が必要な子供たちのためにもデジタル教科書は有用とされている。
生まれた時からスマートフォンやタブレット端末、パソコンなどのネット環境があり、ゲーム感覚で授業に積極的に取り組むことができ、問題解決に当たり、ネット検索等で糸口を探ることができる。教科書に掲載されている練習問題に解答できないとき、人工知能(AI)と連動して、問題を解けない原因を探り、先生と共に、解答できない元はどこかを探ることができる。また、紙の教科書は小学校高学年以降になると重くなり、持ち運びに不便になる。性格的に発言を苦にする子供は意見を書き込みやすくなるなどの良い点がある。
だが一方で、学力の基礎である読む、書く、計算するという能力がデジタル教科書で伸びるのか、学習の理解度や定着率は高いのか、教員のITC指導力は十分なのか、学校内での通信環境は整備されているのか、学校内でスマホやタブレットに不具合が生じた場合に対応できるか、画面を長時間見ることで視力低下などの健康被害は出ないか、など課題も多い。
5G時代を迎え、家庭にそのネット環境があるか、情報端末を置くだけの経済的余裕があるか、支援機器・教材・支援員確保など自治体に財政支援するだけの余力があるかなど、地域間・家庭間で学力格差が生じる可能性は高い。どうやってその溝を埋めるのか、難しい問題である。
昨今のコロナ禍でのリモート・オンライン授業、災害時に登校できないなどのケースでデジタル教科書は役立つものと思える。だが、通常時、全面的にデジタル教科書に移行するというのは、大きな疑問符が付く。現行の教科書でも、タブレットやスマホをかざすと音声で説明されたり、登場人物が肉声で苦労話をしたり、算数・数学で図形の問題を解説したり、理科の実験を動画で説明したり、かなり、ITC化が進んだ教科書も増えている。長期的展望に立って調査を実施し、紙とデジタルの利点を相互に生かすことが不可欠だ。
教育部長 太田 和宏