「処理水」海洋放出、朝日の「地元反対」との虚偽報道が風評被害もたらす

◆「ゆがんだ見方」健在

 「『被ばくによる健康被害がないことを心から望んでいる』と当たり前のことを言って、怒りを買った経験が何度もある。被害が大きいことを望んでいるかようなゆがんだ見方が、まだ健在だ」

 1カ月ほど前、福島大学名誉教授の清水修二氏が毎日新聞福島版のインタビュー記事でこんな話を披歴していた(3月10日付)。政府は福島第1原発の「処理水」を海洋放出する方針を決め、新聞に「風評被害」の文字が躍っているので思い出した。

 清水氏は「原発いらない!福島県民大集会」の呼び掛け人代表や福島県チェルノブイリ原発事故調査団長を務め、原発事故と向き合ってきたことで知られる。それだけに発言は重い。

 「放射線被ばくによる健康被害については、遺伝的影響も含めて当初心配されたような深刻な事態は避けられたというのが専門家の多数意見だ。これを、政府や東京電力にとって都合のいい主張と判断して否定するのは正しくない」

 反原発派のことだ。放射線の健康影響は福島県の調査や国連科学委員会報告がほぼ安全と明言している。これは反原発派にとって「不都合」だから否定する。健康被害がないことを願えば、怒りを買う。それも「何度も」だ。そんな「ゆがんだ見方が、まだ健在」というから破廉恥ぶりに驚かされる。反原発派の正体見たり、だ。

 処理水の海洋放出の政府方針は各紙1面トップで報じた(14日付)。見出しを見ると、読売は「飲料基準以下に希釈」、産経は「基準濃度の40分の1」とあるが、朝日と毎日には「処理水」「原発処理水」とあるだけだ。処理水の中身を伝えないと不安を抱かせる。もしかして、それが狙いか。

◆ウソ垂れ流す福島版

 朝日の福島版は意図的だ。オリンピック聖火リレーが3月25日に福島県のサッカー施設Jヴィレッジからスタートしたが、それを伝える紙面には「放射能禍、コロナ禍、これ以上禍を押し付けるな」とのプラカードを掲げたわずか10人のプロ市民(職業的運動家)の反対活動が写真入りで載っていた(同26日付)。

 処理水の海洋放出の政府方針が伝えられると、「『強行に怒り』反対署名活動の若者ら50人が訴え」も写真付きだ(4月13日付)。記事は「処理済み汚染水について、海洋に放出して処分する政府の方針」と書くが、処理済み汚染水を放出するというのはウソだ。

 朝日の「定義」によれば(14日付)、放射線物質が高濃度の水を「汚染水」、多核種除去設備(ALPS)で処理された水を「処理済み汚染水」、その処理済み汚染水を再びALPSで処理した上で濃度を法令の基準以下にしたのを「処理水」としている。放出するのはその処理水だ。

 どうやら福島版は社の定義すら踏みにじって平気でウソを書くらしい。14日付には「県庁前で『汚染水放出するな』などと書いたプラカードを掲げて海洋放出に抗議する市民ら」の写真記事が載っている。これも「汚染水」と大ウソを垂れ流している。

◆地元の自治体は容認

 原発取材センター長・福島総局長の村山知博氏は全国版14日付1面で「唐突な政治判断 地元反対押し切り」との見出しで解説を書いているが、「地元反対」とは聞いて呆(あき)れる。地元中の地元、原発立地の自治体はそろって容認、福島県知事も反対していない。

 そのことは福島版で一目瞭然だ(扱いは小さいが)。双葉町の伊沢史朗町長は風評対策をした上で「(放出の)方針をしっかり進めて」、大熊町の吉田淳町長は「ALPS水の処分は、廃炉工程の中で避けて通れない作業の一つ」、相馬市の立谷秀清市長は「いずれ何らかの判断をせざるをえなかったことは重々理解する」と語っている。

 それを「地元反対」とねじ曲げている。こんな虚偽報道が反原発派の「ゆがんだ見方」で増幅され、風評被害をもたらすのだ。もはや風評被害でなく「報道被害」だ。はっきりそう言っておこう。

(増 記代司)