教科書による“家族破壊” 20年続く性差否定思想
《 記 者 の 視 点 》
祖父母と両親、そして4人の兄弟合わせて8人家族の中で育った筆者が青春時代を過ごした東北の農村では、いわゆる「拡大家族」が当たり前だった。そんな筆者が2002年、文部科学省の委嘱事業として作製された子育て支援の手引書『未来を育てる基本のき』を見た時に覚えた衝撃は今も忘れることができない。
そこには「血縁関係がなくても『家族』であったり、一緒に住んでいる犬や猫、それから今はもう亡くなってしまった人も、『家族』であり続けるかもしれませんね」とあった。「犬や猫も家族か」と奇異に感じたが、制度でなく心の問題としてはあり得る表現だろう。
問題はその続きだ。「『家族』の定義は1つではありません」としながら「『ふつうの家族』『当たり前の親子関係』というのは、思い込みに過ぎません」と断じていたのだ。そして、その横には、男性2人がエプロンを着けて、料理をするイラストが描かれていた。
戦後、核家族が増えて、拡大家族を「普通」とは言えなくなったのは事実だが、個人が「当たり前」と思っていた家族像を「思い込みに過ぎない」と上から目線で否定することに違和感を覚えた。そして、活字にはしなくとも、同性カップルも「家族」と見なしていいと巧妙に誘導する編集意図に気付き、そのような手引書が政府の委嘱で作製されるようでは「日本の家族が破壊される」と危機感を覚えた。
そこで調べた高校の家庭科教科書にも同じような記述を発見した。東京書籍『家庭総合』(同年検定)は「犬や猫のペットを大切な家族の一員と考える人もある。だれを家族と考えるか、その境界は主観的なもので、また、時が経つにつれて、いろいろな理由でその範囲は変わっていく」と記述していた。
人には有性生殖という生物としての宿命がある。親が子育てするには誰かの手助けを必要とする。そこは祖父母の出番ではないか。行政の子育て支援には限界がある。そんなことを総合的に考えたとき、家族形態の変化にも限度があろう。しかし、手引書と通底する思想で編集されている教科書では、高校生がそこを考え抜く力が付くのか。筆者は危惧を感じた。
手引書は、「子育て支援は、ジェンダー・フリーで!」を堂々と謳(うた)っていた。これでも分かるように、委嘱を受けた女性団体が男女の性差を否定する思想を軸に作製したのは明らか。内容は、女の子にピンク色の産着を着せることまで「ジェンダー・バイアス」とするなど、あまりの偏向ぶりに保守的なメディアや世論から強い批判を受け、その後、販売中止になった。女性団体はこうした動きを、ジェンダー・フリーに対する「バックラッシュ」(反動・揺り戻し)と呼んだ。
だが、教科書はその後、時代の流れだとばかりに、伝統的な家族像から多様な家族像にどんどん舵(かじ)を切った。今使われている教科書には、「同性結婚式を挙げたタレントのカップル」として女性2人が並んだ写真を掲載するものもある。
現在、世論に「同性婚」の是非を問えば、若い世代(29歳以下)では、9割が賛成する(国立社会保障・人口問題研究所2018年調査)。ジェンダー・フリーという言葉はほとんど使われなくなったが、20年前から続いてきた家族破壊思想の影響は深刻だ。
社会部長 森田 清策