ミャンマー騒乱、落としどころは早期再選挙
《 記 者 の 視 点 》
タイには約100万人以上のミャンマー人が就労しているとされる。
バンコク支局時代にも、タイで多くのミャンマー人を目にした。何人かは友達付き合いもした。
その一人が支局に電話をかけてきたことがある。
故郷のシャン州に住む家族が村ごと国軍の襲撃を受け、山に逃げ込み安否が分からなくなったというのだ。いつも冷静沈着な男が落ち着きがなくなっていた。
タイの英字紙バンコクポストやネイションには、ミャンマーの少数民族が政府軍から攻撃を受けているなど一言も書かれていなかったが、友人の生情報は偽物ではなかった。
今回もミャンマー東部カイン州で、カレン民族同盟(KNU)の拠点が国軍に空爆されたことで、3000人近いカレン民族が一時、国境のムーイ川を渡りタイに避難した。
KNUは2015年に政府との間で停戦協定に署名しているものの、クーデターで権力を握り昨年秋の選挙結果を認めない国軍に反発。ミン・アウン・フライン総司令官に宛てた公開書簡で、「平和的なデモ参加者を殺害するのは容認できない」と非難した上で、殺害や破壊行為の停止、拘束した人たちの解放を要求した。またKNUは国軍基地攻撃にも加わったもようで、今回の政府軍の空爆はその停戦協定違反への報復とされる。
さらに北部カチン州やシャン州などでも、少数民族武装勢力が国軍基地を急襲するなど戦闘が激化。国民民主連盟(NLD)メンバーらによる事実上の「臨時政府」が、各少数民族武装勢力と連携してクーデター政権に立ち向かうよう協議を重ねている。
ミャンマーの人権団体によると、2月1日のクーデター後、2カ月間ですでに犠牲者は500人を超えている。このままだと国を二分する修復困難な溝ができ、クーデター政権は治安維持のために中露を後ろ盾に軍事独裁政権へ傾斜していくことになりかねない。
欧米諸国はすでに経済制裁を発動した。待ってましたとばかり、中国のみかロシアまで国軍のバックアップ体制に余念がない。
この不穏な負のスパイラルを止められるのは日本ぐらいのものだ。わが国は軍だけでなく国民民主連盟(NLD)とも強いパイプを持つ。
落としどころはというと、早期の再選挙実施だ。
そもそも国軍は昨秋の総選挙で不正があり、それを正すことを主張。さらに政権を握った国軍は、1年後もしくは2年後の公正な総選挙実施を公約した。
ならば早期の総選挙実施の方向で国軍とNLDの合意を取り付けるべきだ。ただ、アウン・サン・スー・チー氏率いるLNDを説得するには、国軍のLND潰(つぶ)しをさせず総選挙に確実に参加できるようにする必要がある。その根回しを日本が主導し、シンガポールやインドネシアなど東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国などと協力して進めるべきだ。
編集委員 池永 達夫