独極右政党AfDに退潮傾向
躍進を続けてきたドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)に退潮傾向が見られ始めた。連邦議会選を含む過去の選挙戦では連戦連勝で、2017年9月24日の連邦議会選では得票率12・6%を獲得し、野党第1党の地位を確保した。そのAfDがここにきて勢いを失ってきたのだ。
(ウィーン・小川 敏)
コロナ対応で限界露呈
与党のスキャンダル生かせず
AfDは2013年2月に結党した新しい党だ。躍進の理由ははっきりしている。欧州連合(EU)からの離脱を訴え、2015年の中東・北アフリカからの難民殺到時には難民受け入れに強く反対してきたからだ。特に、100万人余りの難民殺到に直面し、多くのドイツ国民はメルケル首相の“難民ウエルカム政策”に不満を持っていた。AfDは、難民殺到に不安と懸念を有する国民や、外国人排斥運動の受け皿となった。難民がAfDを躍進させ、結党4年目にすぎなかったAfDを連邦議会で第3党に押し上げた。
今年9月には連邦議会(下院)選を迎える。世論調査によると、二大政党の「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSD)と社会民主党(SPD)の後退は織り込み済みだが、AfDの低迷も予想されている。新型コロナウイルスの感染問題で信頼を失ったためだ。「同盟90/緑の党」は躍進が予想されている。
まず、3月に実施された2州の議会選の結果を見てみよう。16州のうち人口が3番目(約1073万人)に多いバーデンビュルテンベルク州では、クレッチマン首相が率いる「緑の党」が同党最高得票率32・4%を獲得し、楽々と第1党を維持したが、AfDは大きく後退し、10・4%の自由民主党(FDP)に抜かれ第5党に後退した。ラインラントプファルツ州ではドライヤー首相のSPDが約36%を獲得して第1党をキープ、AfDは9・1%に落ちた。
選挙イヤーの開幕戦だった同2州議会選の直前、与党CDU/CSDに所属する2人の連邦議員が新型コロナ感染防止用マスクの調達で賄賂を受け取っていた疑いが浮上し、大きく報じられた。与党がスキャンダルは、本来なら野党第1党AfDにとってはチャンスだ。
AfDの躍進は、昨年2月5日に実施されたテューリンゲン州の州首相選までで、その後は下降してきた。AfDに陰りが出てきたのは、新型コロナの感染が欧州全土に拡散し、多くの感染者、犠牲者が出てきた頃からだ。コロナ対策で政党としてのAfDの限界が露呈した格好だ。メルケル政権のコロナ対策を批判する一方、コロナ禍を過小評価し、コロナ規制に反対し、マスクの着用にも抵抗を示してきた。その間に感染者は増え、死者も増加していった。
政府のコロナ規制に不満があったとしても、感染予防ではマスク着用、2メートルのソーシャルディスタンスが大切だというコンセンサスがある。そのような時、AfDのコロナ対策は無責任で、批判するだけの政党と受け取られてきた。問題解決の具体的な実務能力に疑問が呈されたわけだ。
ドイツでは過去、極右によるテロ事件が頻繁に発生してきた。その度にAfDはやり玉に挙げられてきたが、マイナスの影響を最小限に抑え、選挙では支持を伸ばしてきた。独連邦憲法擁護庁は3月3日、AfDを「監視対象」とすることを決めたが、ケルン市の行政裁判所は「十分な議論がなされていない」として、監視の差し止めを要請している。
今年9月末の次期連邦議会選までにAfDが勢いを回復できるかは、国内のコロナ禍の状況と、中東・北アフリカからの難民動向にかかっている。