無料通信アプリ「LINE」問題の衝撃 

《 記 者 の 視 点 》

システム管理を海外委託、日本の情報管理の脆弱さが露呈

 無料通信アプリ「LINE(ライン)」の利用者の個人情報が、中国の企業によって閲覧が可能だったニュースに大きな衝撃が広がった。正確に言えば、システム管理を委託されていた中国企業の技術者からアクセス可能な状態で、実際に中国の技術者が少なくとも32回、日本のサーバーにアクセスがあったことが確認されているというのだ。

 このニュースが流れると一部のネット民からは、スパイ防止法の制定を叫ぶ声が上がっていた。

 日本の情報管理の脆弱(ぜいじゃく)さは、戦後直後から指摘され続けてきた問題だ。「ラストボロフ事件」(昭和29年)などを筆頭に大小さまざまな事件が起きている。また、米国に亡命した旧ソ連の国家保安委員会(KGB)のレフチェンコ少佐が「日本は活動しやすかった」と1984年に刊行された『KGBの見た日本―レフチェンコ回想録』(スタニスラフ・A・レフチェンコ著)で証言している。

 スパイ天国といわれた日本の状況を改善しようとして考えられたのがスパイ防止法だったのだが、人権侵害などを理由に廃案にされた経緯がある。それでも人と人を介したりするもので、追跡すれば何とか突き止めることも可能だった。

 しかし、今はデジタル社会であり、IT技術を駆使したスパイ活動も可能だ。

 そもそも、LINEの情報管理の在り方のずさんさは以前から指摘されていたことで、関係者の間では今さら感も広がっている。

 さらに最大の問題は、システム管理を中国の企業に委託していたということだ。国民の個人情報を、日本政府がではなく、海外の企業が見ることができること自体が、より深刻な問題でもある。特に共産党一党独裁の中国という点で非常に危惧すべき事態でもある。

 日本は個人を含めIT化を進めているが、情報セキュリティーという面で非常に甘いといわれている。ちょっとした細工で、システムダウンやサイバーテロ、最悪の事態、戦争の引き金を知られずに引くことも不可能ではない。だからこそ各国は、IT技術者の人材の育成に力を入れているが、先進国の中でも日本は最低レベルといわれている。

 システム管理を海外企業に委託するという点で問題であることをもっと認識すべきだろう。

 今回のLINEの問題を深刻に受け止め、国と国との情報交換が重要となる時期だけに国家機密を含めた情報漏洩に対するより厳しい法律の制定も視野に入れた対策が必要だ。

 サンデー編集長 佐野 富成