「脱炭素に原発の役割大」と正論はく読売、安定供給の視点ない東京
◆危うい再生エネ頼み
「脱炭素」は時代を表す言葉の一つである。菅義偉政権は、2050年までの脱炭素社会の実現を政策目標の一つに掲げ、世界的にもバイデン政権の米国の「パリ協定」復帰もあり、欧州諸国を中心に二酸化炭素(CO2)排出量ゼロを目指す動きが活発化している。
この目標達成に中心的に関わるのが、国のエネルギー政策である。最近の新聞社説でエネルギー問題を扱ったのは4紙。2月24日付産経「温対法改正案/追随型の脱炭素は危うい」、東京「老朽原発/新しい未来図描く時」、26日付読売「エネルギー計画/脱炭素に原発の役割は大きい」、3月1日付日経「テキサス大停電に潜む課題」である。
小欄でも何回かテーマにしたが、読売の「脱炭素…」はまさに正論で、「脱炭素に、再生エネが欠かせないことは明らかだが、そればかりに頼るのは危うい」と強調する。
その端的な例が、1月の寒波で西日本を中心に電力需給が逼迫(ひっぱく)したことである。19年度の再生エネの比率は18%と東日本大震災前の倍近くに高まったが、「降雪による太陽光の急減が一因となった」(同紙)のである。
発電量が天候に左右され不安定な再生エネの活用を広げるには、大規模蓄電池などの技術革新が不可欠である。だが、それまでの間も、電力の安定供給はもちろん必須である。読売は、「『脱炭素』を実現する上で、電力の安定供給は前提だ。政府は、二酸化炭素を出さない原子力発電所の有効活用を目指さねばならない」と強調したが、妥当な見解である。
読売の主張は次期エネルギー基本計画へのものだが、同様の見解ながら、産経は政府が今国会の提出を目指している地球温暖化対策推進法の改正案に対し、見出しのように、厳しい指摘を投げ掛けた。温対法改正案は米欧など「国際潮流への追随」であり、「日本の社会全体に不可逆的かつ深刻な負の影響をもたらしかねない」と。
◆裏打ち欠く目標達成
産経の危惧は、「目標達成への確たる裏打ちを欠いた法改正だ」からである。
CO2の排出削減で最も実用的な原子力発電は、相次ぐ廃炉で基数が10年前の半分近くにまで減少し、再稼働も9基止まりで足踏み状態のため、「主役を欠くエネルギー構成で、いかにして脱炭素社会を実現させるのか」というわけで、尤(もっと)もな指摘である。
再生エネ拡充に傾斜すれば、前述した今冬の寒波による電力逼迫のように、電力の安定供給が綱渡りとなる。
また、日本の高度な環境技術を多くの途上国に普及させれば脱炭素への大幅改善が期待でき、イノベーションの好機でもあるが、「高コストの再エネ電力の拡大や過大な脱炭素化要求によって産業界の負担が増せば、肝心の研究開発の芽がしぼむ」というのが同紙の懸念である。
日経の「テキサス…」は、原発の指摘こそなかったが、「安定供給を保つ方策の重要性を改めて突きつけている」と指摘。特定電源に偏り過ぎない電源構成のバランスも大切だ、と強調した。
日経社説は自由化が進む電力市場で、米テキサス州の大停電は先の日本の需給逼迫と相似形にあること、また、他地域と円滑に電力を融通する仕組みの整備も欠かせないことも説く。その通りである。
◆描けぬ新しい未来図
こうした妥当な論調を展開する保守系3紙に対し、東京は反原発論から抜け出せない。福井県高浜町と美浜町が、町内に立地する高浜原発1、2号機と美浜原発3号機の再稼働に同意したことで、「老朽原発」の延命が、なし崩しに進むとした。現実はなし崩しどころか遅々として進んでない状況にもかかわらずである。しかも、同紙には先の需給逼迫の背景や安定供給の重要性、再生エネの弱点などの指摘が一切なく、現実的なエネルギー政策の体をなしていない。これでは「新しい未来図」など描けようもない。(床井明男)