「Go Toトラベル」は“悪者”だったのか?

《 記 者 の 視 点 》

前年末で停止、感染拡大との因果関係は依然として不明

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い発令されている緊急事態宣言で、政府は26日に大阪や京都、兵庫、愛知、岐阜、福岡の6府県の解除を決定。残る首都圏の1都3県についても、来月7日に解除の見込みである。

 新規感染者の減少傾向が明確になり、医療供給体制の逼迫(ひっぱく)度も緩和されつつあるという判断からである。感染拡大の中心源である東京も、新規感染者はこのところ300人前後で推移し、200人を割る日も出てきた。解除また解除の方向性は妥当な判断だろう。

 ところで、新規感染者減少の理由、つまり何が有効な対策だったのかを改めて考えたい。マスク、うがい、手洗い・消毒などの基本的な感染対策は当然として、緊急事態宣言で取られたのは飲食店に対する営業時間の短縮要請、不要不急の外出自粛の要請、テレワークの徹底などである。イベント開催や遊技場・劇場などでの人数の上限、収容率の要件順守などもある。

 有効策は、どの策がというより総合的に実施されることで効果が発揮されたとも言えるが、筆者がどの策とこだわるのは、感染対策が取られるその背後で大きな犠牲――経済的には解雇、雇い止めの増加、アルバイト大学生の困窮、企業の業績悪化・廃業・倒産、国・自治体の財政悪化など――を伴っているからである。

 もちろん、感染対策が最優先であることは当然で、それらが奏功して一日も早く収束することを願っている。それらの犠牲を最小限にとどめ、患者の命に関わる医療の現場と同じように、経済的困窮からの自殺者が増えてほしくないと思うからである。

 年明け7日からの緊急事態宣言再発令の前、政府の観光需要喚起策「Go Toトラベル」キャンペーンが前年末の12月28日から全国規模で停止になった。国民の移動を誘発し、結果として感染拡大を招いていると見なされ批判を浴びたからである。

 もっとも、「Go Toトラベル」と感染拡大の因果関係は依然不明である。京都大学のグループが1月25日に発表した研究論文で、昨年7月に始まった同キャンペーンの当初の段階で感染拡大に影響した可能性があると指摘されたが、全国規模の調査でないこともあり、あくまで「可能性」にとどまっている。

 キャンペーン停止直前に4000人弱だった全国新規感染者は、1月8日に7949人と倍増してピークを迎えた。時間のずれを考慮しても、キャンペーンに関わりなく感染者は激増し、ピーク後の減少傾向もキャンペーン以外の、緊急事態宣言に伴う措置によるものと言えまいか。

 キャンペーン停止を土台にしたからこそ、それらの措置が奏功したと見ることもできるが、観光地でクラスターが発生したとの話も聞かない。本当にキャンペーンは“悪者”だったのかどうか。

 いずれにしても、飲食・宿泊業を中心にコロナ関連倒産が1000件を突破し、今後も増加が懸念される状況である。

 最近、感染の減少傾向に下げ止まり感が見られるのは少し気になるが、宣言解除また解除の方向の今、少なくとも全国規模の「Go Toトラベル」停止は解除した方がいいのではないか。

 経済部長 床井明男