バイデン米政権誕生、対中強硬姿勢は本物か

《 記 者 の 視 点 》

 米国でバイデン政権が発足した。大統領就任式の当日に「パリ協定」への復帰、世界保健機関(WHO)脱退取り下げなど、17の文書に署名し“脱トランプ”色を鮮明にした。就任演説はほぼ国内問題に費やされ、外交・安保問題は、①同盟関係を修復し、再び世界に関与②模範の力を示し先導③平和と進歩、安全保障のための強力で信頼されるパートナーに―との宣言のみ。

 政府や外交専門家は、新政権の「国際協調と同盟重視」「予測可能な伝統的な外交安保政策への回帰」などへの期待が強いが、日本の外交・安保にバイデン政権の登場が吉と出るかどうかは予断を許さない。

 その最大の試金石は対中姿勢だ。バイデン政権の外交安保政策を担うブリンケン国務長官候補やオースティン国防長官候補はいずれも上院の公聴会で対中強硬姿勢を鮮明にしているが、大統領にそれを裏付けする意思と決意があるのかが問題だ。懸念の種は存在する。

 まず、バイデン大統領就任直後に菅義偉首相がツイッターで「大統領と協力していけることを楽しみにしている」と投稿した「自由で開かれたインド太平洋」構想について、バイデン氏は昨年来、同地域の重要性は認めながらも「自由で開かれた」の代わりに「繁栄し安定した」(菅首相に。豪印首相には「安定し繁栄した」)との言葉を使っている。同構想が南シナ海などでの中国の覇権主義的な動きに対抗する意味を込めている以上、「自由で開かれた」は必須のはずだが、中国抜きで考えられない「繁栄し安定した」を付けては意味が違ってくる。

 また、バイデン氏はオバマ政権の副大統領として中国の習近平国家主席と会談し、北朝鮮の核ミサイル問題への協力を求めた際、対中包囲網への懸念を表明した習氏に対し、「日本が明日にでも核を保有したらどうするのか。彼らには一晩で実現する能力がある」と説得した。同氏は2016年大統領選の応援演説で「日本が核兵器を保有できないようにわれわれが日本の憲法を書いた」とも語った。

 発言の根底には、米国の従来の指導層が持っていた日本の軍備増強への強い懸念がある。在日米軍のため日本は本格的な軍備ができないとする「瓶のふた」論に通じ、米国が中国を説得するときによく使う。1971年、ニクソン政権の大統領補佐官として極秘訪中し、対中関与政策の先鞭(せんべん)をつけたキッシンジャー氏が中国の周恩来首相(当時)に米中関係改善を説得するときも、「日本に関しては貴国の利益とわれわれの利益は、とても似通って…どちらも日本が大々的に再軍備をした姿は見たくありません。そこにあるわれわれの基地は…彼ら自身の再軍備を先送りするためにあるのです」と語った。

 トランプ政権は軍事・経済的な中国の膨張に対抗するため、日本の防衛力増強だけでなく敵基地攻撃能力保有まで容認(後押し?)する姿勢を示したが、バイデン氏がいまだに「瓶のふた」論的な考えだとすれば、トランプ政権と同じような姿勢が続く保証はない。

 全てが杞憂(きゆう)に終わることを願うばかりだ。

政治部長 武田 滋樹