映画「鬼滅の刃」大ヒット コロナ禍で起きた珍事

《 記 者 の 視 点 》

 10月16日公開の映画「劇場版『鬼滅の刃(やいば)』無限列車編」の快進撃で11月上旬には、日本映画歴代の興収(興行収入)のトップ5をアニメーション作品が占めることが確定した。

 23日までに「鬼滅の刃」は259億円を超えた。これまで2位だった新海誠監督の「君の名は。」(2016年公開、246億5千万円)を抜き、日本映画興収の1位、宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」(2001年公開、304億円)に迫る。

 これにより、4位と5位は宮崎駿監督の「ハウルの動く城」(04年公開、196億円)と「もののけ姫」(1997年公開、192億1千万円)に。6位に実写映画「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」(2003年公開、本広克行監督:興収173億5千万円)が続く。また、「鬼滅」は、海外の作品を含めた歴代興収3位の「アナと雪の女王」を超え2位の「タイタニック」も射程圏内だ。

 劇場版「鬼滅の刃」はコロナ禍における珍事であったことは否めない。ハリウッドを含めた海外、邦画の話題作が軒並み延期。その穴埋めとして上映された。

 「鬼滅」のようなテレビアニメシリーズの“つなぎ”の劇場版は通常全国で100館公開はいい方で、1桁ということもあり上映スクリーンの数も少ない。しかし、コロナ禍により上映館数が300館以上、全国で1000スクリーン以上、時間も分刻み。通常では考えられないことが起きた。

 原作となった漫画やテレビアニメで人気に火が付いた。テレビアニメはTOKYO MXという東京圏ローカル局の深夜枠で放送されていた。人気はあるが、全国規模のものでもなかった。公開直前にフジテレビが特番を組み、全国放送されたことでより注目を集めた。

 日本には潜在的にアニメや漫画好きが多い。好きな作品と出合えば複数回見るというリピーターとなる。ネットでは「4回、5回」見たという書き込みが見られ、この数が多いほど興収増へとつながる。地方では、見たいと思っても上映する場所が近くになければ足が遠のき、DVDやネット配信へと流れる。しかし、近くで上映ともなれば、おのずと足を運ぶ。それが明確になった。

 作品も「悪にも悪の論理がある」と敵役についても描かれる。圧倒的な力を持つ敵に挑んでいく主人公たち。吹っ飛ばされても、叩きのめされても愚直に思考しながら挑む姿が感動を呼ぶ。日本のアクション系アニメーションが得意とするところだ。そこに鬼にされた妹を「人間に戻したい」という信念と鬼にも情けを掛ける主人公、「鬼」にされながらも兄を想(おも)う妹との絆。ふたりを見守り助ける周囲の人々の姿がさらなる感動を呼ぶ。どんな困難でも乗り越えていく主人公たちの姿は、観客を引き付けるには十分だ。

 日本には古来から「鬼」=「疫病」と捉える面がある。敵の鬼は「疫病」であり主人公と共に戦う仲間たちは「医者」、鬼にされた妹は「患者」に置き換えることもできるのではないだろうか。

 文化部次長 佐野 富成