まさに劇的な復活優勝は幾つもの記録に…
まさに劇的な復活優勝は幾つもの記録に彩られている。万全の新型コロナウイルス感染対策を取り、半年ぶりに観客入りで開催された大相撲7月場所は、元大関で幕尻(東前頭17枚目)まで這(は)い上がってきた照ノ富士が5年ぶり2度目の賜杯に輝いた。
両膝のけがで14場所務めた大関から陥落した後、糖尿病や内臓疾患も加わって休場が続き、序二段まで落ちた。そこから体質改善とけが治療、稽古に取り組み、2年半ぶりの再入幕を果たした。
史上2番目のブランクとなる30場所ぶりの復活V。大関経験者の平幕優勝は44年ぶり、幕尻優勝は3人目となるが、何より大関経験者が幕下以下で現役続行した例はなかったのだ。
今回注目すべきは、優勝と殊勲賞と共に獲得した初の技能賞である。優勝を決めた千秋楽の関脇御嶽海との一番約6秒に、それが凝縮されている。
大関時代には1㍍92㌢、180㌔の体格にものを言わせて、脇の甘さも構わず、力任せの強引な相撲が目立ち、それが膝の故障を呼び込む一因となった。御嶽海戦では脇を固め、左上手に続き右上手も浅く取り強烈な引き付けで御嶽海の腰を浮き上がらせた。
そのまま自然な流れで寄り切った一番は、往時の力強さに加わった巧(うま)さが光り、取り口の進化を印象付けた。辞めないできたのは再び大関を見据えてかとの問いに「いや、その上でしょう」と応えたテレビ解説者の弁が現実となることもあり得なくはない。