国内の旅行が自由にできるようになって…
国内の旅行が自由にできるようになって、しばらくぶりで東京の西の奥にある高尾山に登った。京王線の車中で終点が近づくと、乗客は減って登山者が目立つようになる。そっと彼らの装備を見た。
登山靴は革製ではなく布製で、シャツもズボンも山岳雑誌の広告から抜け出してきたようだ。1970年代に盛んに登った気流子の若い頃とすっかり違っていて、未来に来てしまったようだった。
その頃の経験では標高差500㍍を50分ほどで登っていた記憶があるが、今回、高尾山では2時間近くかかった。マイペースは変わりがないが、老いると体力が落ちる。老化とは体力低下のことだ。
手元に登山家・三浦雄一郎さんの書いた『高く遠い夢ふたたび』(双葉社)がある。2013年5月、80歳でエベレストに登頂した時の体験記だ。古本屋で見つけたのだが、サインがしてあった。
14年4月20日の日付があり、高尾山と記してある。エベレストと高尾山の取り合わせが面白いと思った。ここでサイン会があったのか、たまたま登山者から本にサインを求められたのか不明だが。
エベレストを登った登山家でも、65歳でトレーニングを始めたのは、自宅のある札幌市の裏山。この藻岩山は高尾山とほぼ同じ高さだが、登るのに難儀している。緻密な計画と訓練を積み重ねることによって、エベレスト登頂を可能にする自分をつくり上げていったのだ。人生はこのように生きたいものだ。