機密漏れ始めた中国共産党 習政権の強権統治への反動か

《 記 者 の 視 点 》

 中国共産党の機密文書やスパイ行為が漏れ始めている。これは習近平政権の強権統治への反動なのか、“中華帝国”の終わりの始まりなのか。

 400ページに及ぶ新疆ウイグル自治区でのウイグル人強制収容所に関する中国共産党の内部文書が10月16日、米紙ニューヨーク・タイムズによって暴露され、24日には国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が同収容所に関する徹底した大規模監視システムを命じた内部文書を明らかにした。

 前者の内部文書によるとウイグルでは、「あごひげを蓄えたり、禁酒やアラビア語学習」といったイスラム教への信仰を連想させる行為だけで収容対象になるとされる。

 また、ICIJが入手した内部文書では、「絶対に逃亡や騒ぎ、職員襲撃、死亡事件の発生を許さない」とし、施設には警備室や歩哨塔、死角のない監視カメラ群、警報装置を完備すること。車両駐車では「車両前部を施設内部に向け、必ず施錠する」としている。収容者が車を奪い脱走することがないようにとの心掛けと思われる。宿舎や施設各階の出入り口は必ず複数人で2重の施錠するよう指示、24時間態勢の当直も必須としている。

 これだけみても、当局が言う「職業技能教育訓練センター」が教育施設などではなく、新疆ウイグル自治区のイスラム教徒弾圧の冷酷な強制キャンプであることが理解できる。

 さらに香港や台湾でスパイ活動してきた王立強氏(27)が、豪政府に亡命を求めるといった事態も発生している。

 王氏によると中国情報機関が豪州メルボルンの中国系実業家に100万豪ドル(約7400万円)の資金提供を申し出て、5月の与党・自由党からの総選挙出馬を促したとされる。この実業家が当選した場合、スパイ活動に従事させられた可能性があったが、実業家は3月、メルボルンのモーテルで遺体で発見されている。

 なお、この中国人男性は習近平国家主席や中国共産党幹部の暴露本などを販売していた香港・銅鑼湾書店の店長拘束事件や台湾工作にも携わったとされ、台湾紙では1面トップの扱いで報じられた。

 王氏は香港では軍情報部に所属、韓国の偽パスポートを使って台湾にも出掛け、来年行われる総統選挙での蔡英文総統続投を阻止するため、フェイクニュースや攪乱(かくらん)情報を流すためメディアを活用していることを暴露した。

 かつてKGB(旧ソ連諜報(ちょうほう)機関)所属のレフチェンコが米国に亡命し、議会証言で世界的な大きな反響を呼んだように、スパイ活動の実務に携わった王氏の証言は中国の裏の実体を白日の下にさらす可能性がある。少なくとも王氏の中国送還を許すようなことになれば、彼はほぼ確実に死刑にされる。

 記者が興味を持つのは、こうした中国内部の機密に通じた人物が亡命により、その裏情報を提供しようとし、政権内部の機密情報が漏れ始めたこと自体が、共産党政権の組織を束ねる力にほころびが生じつつあることを意味するかどうかだ。習近平政権はこれまでの2期10年という国家主席の任期を撤廃し終身国家主席への道を開いたばかりか、「ハエもトラもたたく」汚職一掃運動で120万人もの地方役人から共産党幹部まで粛清するといった強権統治で国家掌握を強めてきたが、その揺り返しが来ているのかもしれない。

 編集委員 池永 達夫