来春商用化がスタートする次世代通信規格5Gへの見方分かれる2誌
◆より広く早く正確に
来年3月から5G(第5世代移動通信規格)の商用サービスが始まる。5Gは通信の分野を中心として日常の社会生活において革新的なサービスの実現を支える大きな柱と位置付けられている。そもそも5Gのメリットは、これまでのスマホでは限界のあったサービスが、より広く早く正確に享受できると言われている。
例えば、テレビやスマホでスポーツ観戦する際に、与えられた映像しか見ることができなかったが、5Gでは瞬時に送られてくるさまざまな映像から視聴者が選手の表情や競技場のさまざまな様子をリアルタイムで見ることが可能になり、建築現場でも幾つもの現場を4K画像や音響装置を使って正確な遠隔操作が可能になるメリットがある。
高速大容量、低遅延、多接続が可能で5Gは自動運転や教育、医療などさまざまな分野で革新的な変革をもたらすとされている。果たして、5Gは近い将来にバラ色の世界を築いてくれるのであろうか。
こうした中で経済2誌が5Gの近未来について特集を組んだ。一誌は週刊エコノミスト(11月5日号)の「5Gのウソ ホント」、そしてもう一誌がダイヤモンド(同9日号)の「5G大戦」である。
◆設備投資への負担大
エコノミストのリードは次のようにつづる。「(5Gによって)さまざまなサービスの進化が見込まれるが、過度の期待は禁物といえる現実が見えてきた」と慎重な見解を述べる。その一つが基地局整備。「産業での活用を見込む5Gネットワークでは、人が居住しない地域にも設備投資する必要がある。それだけ通信キャリヤや事業者にかかる負担はおおきくなる」とする。
設備投資への負担が大きいという背景には周波数帯域とネットワークの構築という問題がある。5Gを利用する際の周波数は日本では6ギガヘルツ以下の帯域と28ギガヘルツ帯が割り当てられている。6ギガヘルツ以下では高速大容量で送ることはできるが、低遅延同時多接続は実現できない。一方、28ギガヘルツは電話の到達距離が短いため100㍍置きに基地局を造る必要がある。さらに電波は障害物を回り込みにくいためビルが乱立する所では細かく基地局を造らなければならない。こうした設備投資に巨額な資金がいるというのだ。
さらに需要面に関しても「5G時代におけるキラー(特定の分野を普及させる圧倒的な魅力を持ったサービスや製品)は、まだ見えづらい」「現状のモバイルサービスを利用する際に4Gで困るシーンはそれほどなく、消費者が5Gを使わなければならないという差し迫った需要は多くない」と悲観的。結局、5Gが一般消費者に身近な存在となるのは時間を要するというのがエコノミストの論調だ。
◆5G対応型の社会へ
一方、ダイヤモンドは世界的に見て5G市場とりわけ5G対応のスマホ市場は沸き立っていると強調する。「4Gの時代より急速に広がっているのは間違いない」。同誌は5G用半導体大手の米クアルコム社のクリスティアーノ・アモン社長の言葉を引用しているが、すでに今年から韓国、米国に続き欧州各国で5Gの商用化がスタートしているのを見れば、5G市場は今後さらに広がりを見せるというのである。そこで5Gスマホの勢力図については、日本国内ではソニーとシャープの日本勢に加え、サムスンとLGの韓国勢、さらに割安な中国製の製品となる。また、世界を見ると韓国と中国製にアップルが加わって米韓中の三つどもえの争いとなり、「そこにソニーとシャープがどれほど食い込んで存在感を見せるかが焦点だ」(同誌)という。
5Gに関して言えば今後、数年間は基地局建設などで紆余(うよ)曲折があるものの、5G対応型の社会が構築されるのは時代の潮流といえよう。そうした中でスマホ市場だけでなく半導体などの素材やセンサーや通信機器などの分野で日本の技術力をいかに発揮するかに懸かっていると言える。
(湯朝 肇)