文政権の「民主有功者法」 共産主義者の「スパイ」に報償金
「積弊清算」は保守政権への報復
韓国では文在寅政権が進める「積弊清算」が対日関係を揺るがしているだけでなく、自国の過去を再定義するなど、おかしな政策が進められている。かつて国を売り利敵行為をして有罪判決を受けた共産主義者の「スパイ」が、韓国で共産革命が起こったわけでもないのに、今では「国家有功者」として認定され報償金を受け取るというのだ。
朝鮮日報社が出す総合月刊誌月刊朝鮮(4月号)が特集を組んだ。同誌は国家有功者を報償する国家報勲処(庁に相当)の「用務報告書・民主化運動関連者の民主有功者優遇に関する研究」を入手した。これによると、文政権は“民主化”活動家を報償する「民主有功者法」を制定して、反政府運動、地下共産主義活動、さらには反国家スパイ活動まで行った人物を「民主有功者」として報償しようとしているというのだ。
従来の「国家有功者」とは、戦没・殉職・公傷等の軍人・警察官、武功・報国殊勲者、国家発展功労者等で、功労者に認定され、報償金を本人または遺族が受け取る。
文政権がまず「積弊清算」に取り上げたのが「光州事件」だ。1980年5月、全羅南道の光州で民間人が武装して蜂起した事件である。当時の全斗煥政権は、「共産主義者が扇動した武装蜂起」とみて軍隊を投入し武力鎮圧した。軍の武器庫を破って武装し、道庁を占拠して抵抗していた「光州市民」には多くの犠牲者が出た。
金大中左派政権になって光州事件を「5・18民主化運動」と規定し、全斗煥将軍らによるクーデターに反対・抵抗した民主化の運動だったと捉え直した。それだけでは済まず、今になって文政権は当時の「民主活動家」を国家の民主化発展に寄与したとして「民主有功者」にしようというわけである。
正反対の解釈があるにもかかわらず、政権の立ち位置によって評価が180度変わるのだ。こうみてくると、つまり「積弊清算」とは政権交代による報復合戦と言っていい。左派が政権を取れば、保守派を粛清し、左派視点で歴史を書き直し、保守派政権となれば逆のことが行われるわけだ。
だから、政府間の約束である「慰安婦」日韓合意も、遡(さかのぼ)って日韓基本条約・請求権協定も、韓国では政権が代われば簡単に覆されるもの、解釈が変えられるものなのだ。
48年の大韓民国建国以来、半島の北部分に「主体思想」という疑似共産主義的封建主義の独裁国家が造られたことで、長らく韓国は「反共」を国是としてきた。共産主義はベトナムの例でも分かるように、相手側に「民主」を偽装し、内部攪乱(かくらん)、反政府運動、地下活動、思想教育を展開して、本体を呼び込み、政府転覆、革命を行う。全斗煥政権は光州事件をそのように捉えたわけだが、現在の左派親北政権の視点から見れば、それは「軍事政権に抵抗した民主化運動」だったとなる。
さて、同誌は光州事件の解釈変更だけでなく、これまで韓国で試みられてきた共産勢力による事例を挙げているので、幾つか紹介する。
「救国前衛」は93年に韓国に浸透した朝鮮総連工作員から指令を受けて結成された朝鮮労働党の地下党で、95年ソウル高裁が反国家団体と規定した。
80年代の主体思想派の核心勢力が北朝鮮に抱き込まれ、韓国に結成されたのが地下党「民主革命党」。内乱扇動罪で収監されている李石基(イソッキ)統合進歩党議員も同党所属。今では「政治工作の被害者」だとして釈放を求める運動が続けられている。
実際に摘発され有罪となりながら「民主有功者」になった例としては、「南朝鮮民族解放戦線準備委員会(南民戦)」「安養民主化運動青年連合(安民青)」「進歩民衆青年団体連合(進歩民青)」「韓国社会主義労働者同盟(社労盟)」「自主民主統一運動グループ(自民統)」「革命的労働者階級闘争同盟(革労盟)」「民族民主革命学生党争連盟(民学連盟)」等々、枚挙にいとまがない。
事件としては「嶺南委員会事件」(99年)、「東義大事態」(89年)、「自主隊伍事件」(91年)、「旺載山スパイ集団事件」(93年)などがあり、有罪判決を受けた者らが有功者となっている。いわば思想犯、政治犯が転向もせず、むしろ評価されて社会に出てきたという状態なのである。
改めて確認するが、韓国で共産革命が起こったわけではない。しかし、ここで述べたものはそれに等しい事態が展開していることを示している。
編集委員 岩崎 哲