金正恩「一人支配」に懐疑的見方も
韓国情報機関系シンク 張氏処刑後の北朝鮮展望
手腕発揮できねば体制不安
韓国情報機関系シンクタンクの国家安保戦略研究所はこのほど新年の北朝鮮情勢を展望する報告書を発表した。ナンバー2だった張成沢・朝鮮労働党行政部長の衝撃的な処刑を機にした最高指導者・金正恩第1書記による「一人支配」はさらに強まるが、成果を上げられない場合は体制不安につながると指摘している。
(ソウル・上田勇実)
報告書はまず張氏処刑が「金第1書記による唯一支配体制の本格的出発を意味」し、北朝鮮は今年、その支配体制の確立にさらに邁進(まいしん)すると予想している。従って「張氏に代わるナンバー2や側近が登場するのではなく、金正恩中心の体制を強化する方向に権力構造が再編」されるという。
張氏処刑の余波では、すでに側近グループの追加粛清や本国召還が伝えられており、一部では亡命説や自殺説まで浮上した。長年にわたって権力中枢に居座り、金正日総書記死去後は事実上の摂政をするほどの権勢を誇っていただけに、金第1書記が思い描く権力構造再編は「張氏一派抜き」と考えるのが妥当だろう。
報告書は張氏処刑後の新しい最高側近グループについて「党組織指導部と国家安全保衛部の核心メンバーが崔竜海・軍総政治局長と共に新しい権力中枢を形成」していると指摘。今後は彼らの動向が注目されるが、取りあえず「上半期に開催が予想される第13期最高人民会議」が権力構造再編の行方を占うポイントだとしている。
だが、金第1書記の「一人支配」に対し報告書は懐疑的な見方も示している。
張氏亡き後、「北朝鮮の政策は金第1書記の資質や能力などに左右される可能性が大きく、政策の成果が上げられなかったり、失敗が繰り返された場合、体制不安の要因として作用する」と分析している。
特に「旧世代の権力層に対する強制的なクビ切りや粛清は、当事者だけでなく権力エリートの大半に心理的動揺を抱かせる」ため、金第1書記に対し「保身のため表向きには服従しても内心では能力以上の権限を確保したことに対する批判意識を共有」するようになるとみている。権力層の反発は金第1書記にとって命取りになりかねない。
昨年、北朝鮮は「経済建設・核武力の並進路線」を国家目標として掲げたが、このうち張氏処刑の悪影響が予想されるのが経済分野だ。経済分野、特に全国的な庶民経済の改善ができなければ広範囲の民心離反は必至だ。
報告書は「これまで経済政策を主導してきた張氏の処刑で経済エリートの立場が弱くなり、政策の保守化を招く可能性が高い」としている。張氏は中国式改革・開放の理解者だったとされるが、「今回の粛清の背景に改革・開放路線を推し進めようとしたことへの反発があったとしたら、改革・開放は後退せざるを得ない」といえる。改革・開放なき経済政策で北朝鮮が抜本的に経済危機を脱出できるかは極めて疑問だ。
報告書は金第1書記体制の2年間で「金日成・金正日偶像化施設に2億㌦、金正恩治績誇示のための非生産的娯楽施設の建設に3億㌦の計5億㌦が浪費されたと推定される」と指摘。こうした無駄な支出に加え、庶民経済活性化につながらない一時的な「経済措置」や国際社会による経済制裁などが続くことも予想され、報告書は「経済再建の見通しは暗い」と悲観的だ。